第68話、空からの脅威に対抗するために


「防空力を強化したい!」


 俺の発言に、ディーシーは小首をかしげた。


「いきなりどうした、主よ?」


 ボスケ大森林地帯深部の地下、秘密基地。ダンジョンクリエイトで作ったばかりの大部屋に、俺とディーシーはいた。


 ベルさんは外で元気に魔獣狩り。


「フメリアの町にワイバーンが襲来しただろう?」

「そうだな。この世界では珍しくはあるが、ないこともない」


 場所によっては台風がくるぞ的な、頻度でワイバーン被害に悩まされていることもある。


「ワイバーンに限らず、飛行可能な魔獣の襲撃は結構な問題だ」

「光りものに引かれてグリフォンがやってくる、なんて言うしな」


 ディーシーは呆れ顔になった。


「主よ。とりあえず、こんなものを作ってみた」


 そう言って彼女が出したのは――


「浮遊ポッドか……?」


 いずぞやの浮遊石を搭載したゴーレムの手足を取っ払い、魔法砲を頭の部分に取り付けた浮遊する砲台。棒のような下半身の他に、胴体下部に2枚の羽子板のようなものがついている。


「あの板は、バランサーか?」

「空中機動用の風力噴射板だ」


 何でも浮遊石で浮くことはできるがそれだけでは移動ができないので、風力噴射板から風魔法を使って移動するという。


「どれくらいの速さで動けるんだ?」


 確認すれば、1回の噴射で空中を数メートルスライドするような感じで移動した。……これは飛行というより『浮いている』が正解だな。


「空中砲台としては使い道があるが、あくまで砲台だな」


 迎撃にしか使えない。


 あの風魔法の噴射板から持続的に噴射できれば、一応、飛行はできそうだ。……速度と、断続使用による魔力消費については……まあ、そうね。


「俺としては、こういうのを考えている」


 タッチパネルを操作して図を書き込む。ディーシーはそれを読み取る。


「ふむふむ、この上にプロペラがついている奇怪なものは?」

「ヘリコプター」


 回転翼機と呼ばれる航空機である。でかい回転翼――ローターをぶん回して揚力を得て飛行する。


「ぶっちゃけると、ただ浮くだけなら浮遊石があるから、ヘリって微妙かもと思ったが、回転翼の角度を調整することで推進力が得られるから、さっきの浮遊砲台よりは飛び回ることができる」


 武装を施した戦闘ヘリは、敵地上兵力に対して圧倒的な優位があるので、対大帝国戦を考えれば、ヘリコプターないしそれに類する攻撃機は必須だと思う。


 まあ、ヘリは輸送や捜索、移動手段と様々な運用ができるから、戦闘以外でも欲しいところではある。


「ただ、俺が考える防空力となると、ちょっと疑問符はつく」

「と言うと?」

「対飛竜用の武器として考えるなら、空中戦ができる兵器が欲しいわけだ」


 武装したヘリコプターとワイバーンが対決する……。現代のミサイル兵器があれば、アウトレンジはできるんだろうけど、距離を詰められたら負けそうなんだよねぇ、ヘリコプター。


「空中戦か」


 ディーシーは腕を組んだ。


「現状、ワイバーンは主やベルさん、うちのシェイプシフターで迎撃できるぞ」

「俺やベルさんがいない時に対処したいんだよ」


 俺たちがいなかったから、町は滅びました、では意味がない。


「それにシェイプシフターといっても、ワイバーンクラスの大型魔獣だと決定力不足だろう?」


 変身能力があって、飛行する生物にもなれるシェイプシフターたち。以前、彼らは空中の敵に対して、剣に翼が生えた異形に変身して突撃をかましたことがあった。


 ワイバーンに対して、複数が本体ごと体当たりをしたが、刃が急所まで届かず、即死させられなかった。突っ込んだシェイプシフターたちは直後に自分たちを爆弾化させて自爆。それでようやく撃墜したものの、犠牲もまた大きかった。

 以後、戦闘できなくなったことをを思えば、良策とは言い難い。


「そこで、俺たち以外でもワイバーンと渡り合える武器を作っておきたい」

「なるほど。この町の人間でも対抗できる武器ということか」


 ディーシーは、俺の書いた図を見やる。


「鳥のような形だな。……この先端部分は、レシプロエンジンか?」

「ディーシー。飛空船用のエンジンだが、あれをもっと小さくできるか?」

「縮小か? 可能だ」


 新たに小さい部品を作ることなく、そのまま小さいサイズとして生成すればいい。エンジンとしてモノができているなら、縮小しても問題はない。ただし軽くはなるが、パワーは小さくなった分落ちる。


「じっくり開発している暇がないからな。とりあえず飛べるものとして形にしたい」


 まずひとつ作ってみて、そこから改良を重ねていくスタイルだ。性能は二の次として、まずは飛行機としての基本を作り上げる。


「まあ、ただ飛ばすだけなら、実はさほど難しくない」


 この世界には浮遊石がある。それを搭載すれば浮くことは可能。あとはプロペラ回して推進力を持たせれば、とりあえず飛ぶことができるのだ。浮遊石効果で墜落することもないしな。


「問題は、ワイバーンとタイマンできる性能を持たせられるか、だ。こればかりは前例がないから、手探りでやっていくしかない」


 元の世界でも趣味の延長でかじったくらいで、実際の航空機には触ったこともないしな。


 まず飛ばす。そこからまともに空中戦ができるレベルにまで技術を上げていく。


 いっそ誘導ミサイルでも作れれば楽なんだけどな。だがそれには、すっ飛ばすためのロケットエンジンが必要で、さらに標的にぶつけるための誘導装置も必須だ。


 魔力を使って遠隔操作する手もあるかもだが、ロケットエンジンは一から作らないとな……。


 そう考えると、早期に完成させられるのは、エンジンのモデルがあって製造が可能なレシプロ航空機となる。


 ロケットの話ではないが、本当はジェットエンジン搭載の航空機も作りたいんだけどね。おそらくワイバーンのスピードを軽く凌駕するだろうことは想像に難くない。


 たぶん、魔力を使った魔法エンジンになるだろうけど、魔力消費量の問題がネックになりそうな予感はしている。


 とはいえ、ディーシーが先の浮遊砲台に使った風力噴射板の技術を応用すれば、ジェットエンジンに及ばないまでも航空機が作れるかもしれない。


「まあ、物は試しだ。色々やっていこう」

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