第67話、ダンジョンクリエイト


 王都冒険者ギルドとの連携が確認され、さっそく冒険者ギルドから解体部門の人間がやってきてワイバーンの解体作業を手伝った。


 俺たちは王都ギルドのヴォード氏、ラスィアさんらと今後についての話し合い。ポータルのこちら側に冒険者ギルドの出張所が作られることになり、その設備についても協議。


「受付、警備員の詰め所――冒険者ギルドと繋がっているから、最小でいいだろう」


 費用などはルーガナ領持ちなので、ヴォード氏はこちらにあまり負担をかけないように気をつかった。


 しかしラスィアさん――王都冒険者ギルドのサブマスターは、視線を広場へと向けた。


「解体場はあったほうがいいかと」

「……そうだな」


 どでかいワイバーンの解体作業。10メートル以上の大物はそうそういないが、ポータルを通過できる大きさというものがある。


 その通過サイズを考えれば、フメリアの町のポータル近くに解体場を置くべきかもしれない。


 他に休憩所を設置するという形で話はまとまった。簡単な図を書いてもらい、こちらで建物を建築する。


「では、進展がございましたら、よろしくお願いいたします」


 ダークエルフ美女のサブマスターがニコリと笑みを浮かべる。お任せあれ。夜中にダンジョンクリエイト機能を使って、建てておくから。


 今日はワイバーンの襲来もあって、ボスケ大森林への魔獣狩りは中止。そう俺がアーリィーやブルト隊長に言えば、ヴォード氏が挙手した。


「オレもできればボスケ大森林がどんな感じが下見をしておきたい。もし森へ行くことがあれば同行したいのだが、よろしいか?」


 駄目なら日を改めて、冒険者グループで行くだけだが――と彼は言った。


 ブルトが頷いた。


「Sランク冒険者にしてドラゴンスレイヤーと名高いヴォード殿がいらっしゃるのは心強い。よろしければ、是非に」


 ということで、彼の同行が決まった。王都冒険者ギルド側としても、森がどのようなものかを知るのは、送り込む冒険者のレベルを見定める材料になるだろう。


 やってきた冒険者が手当たり次第、死亡では洒落にならないからな。


 というところで、今日のところは解散。


 俺は自由時間を得たが、やることは色々あるんだよね。



  ・  ・  ・



 ボスケ大森林への入り口のひとつでもあるハッシュ砦。この通り道の整備が必要だ。


 俺とベルさん、ディーシーは魔力自動車で砦にやってきた。


「フメリアの町まで徒歩一時間」


 ハッシュ砦という名の壁。そこにはこちらが派遣したシェイプシフター小隊が警戒についている。


「冒険者たちが森を出た直後にお世話になるセーフゾーンでもあるわけだから、休憩所や簡単な宿があったほうがいいだろうね」

「武器屋、道具屋」


 ベルさんが考えるポーズ。


「むしろフメリアの町じゃなくて、こっちに作ったほうがいいんじゃねぇか?」

「そうは言っても、ここは有事の最前線だからな」


 できれば領民も危険地帯のそばにはいたくないだろう。


「むしろ、冒険者を相手にする商売する商人がやってきて、勝手に村にしちゃうかもな」


 ぼったくり上等で戦場に出張ってくる逞しき商人たち。戦争ではよく見た光景だ。


「じゃ、それを見越して、こっちは最低限にするか」

「面倒がなくていいだろう?」


 俺がわざとらしく笑みを浮かべれば、ベルさんもニヤリとした。


 ハッシュ砦の冒険者向け拠点の設営は、とりあえず後にして、俺たちはそこから徒歩でボスケ大森林地帯に入った。


「こんなの、アーリィーやヴォード氏に見せられないな」


 エアブーツの浮遊とジャンプ機能を使って、飛び跳ねるように森を進む俺。ベルさんも同様だし、ディーシーは杖形態で俺の手にある。


 目指すは、魔力収集用に作った地下拠点。モンスターたちを飛び越え、さっさと森の深部へと向かう。

 一応、ポータルを繋いでいるから行くだけならすぐなんだけどね。森の様子を駆け足とはいえ見ておきたかったから、というのもある。


 ベルさんが、通過していくモンスターを見下ろしながら言った。


「これだけモンスターがいるんだ。森に来る冒険者どもも退屈はせんだろうな」


 そして目的地にあっさりと到着する。


「じゃあ、ジン。オレはこの辺りで適当に狩りをしてくるわ」


 ベルさんが手をヒラヒラさせて立ち去った。ここから先は、ベルさんがやることないからな。


 秘密の地下階段を降りる。魔力を収集しているダンジョンコアのコピーが置かれている部屋へ。


 ディーシーが杖から人型――美少女魔術師姿に変わった。


「さて、やっとダンジョンが作れるぞ」


 ダンジョンコアであるディーシーが伸びをしながら上機嫌な声を出した。……人間じゃないんだ、筋肉をほぐすとか伸ばすとかの行為に意味があるのだろうか? まあ、人間らしいというか、可愛いから許す。


「さあ、主。やってくれ」

「はいよ」


 ホログラフィック状のタッチパネルが浮かび上がる。ダンジョンコアのマスターが使うことができるダンジョンクリエイト。


 昔から何かを作るってのは好きだ。


「子供の頃、秘密基地を想像して絵に書いて遊んだもんだ」


 だが、あの頃はただ夢想するだけだったことが、ここではできてしまうんだ。……最高かよ。


「うんうん」


 ディーシーが腕を組みながら頷いた。気持ちはわかるってか。


 魔力と引き換えに自在にダンジョンカスタマイズ。……うん、貯蓄魔力量もかなりあるな。


「まずは大雑把にデカい部屋を――」


 テンプレートから大部屋を設定。大きさをそれぞれ100メートルとった箱形に。ウェントゥス号――飛空船が複数収まるくらいの巨大部屋だ。


「地上に50メートル四方のゲートを設置して……上にある木を撤去しないとな……」


 作業をしているとつい独り言が多くなる。こっちは楽しいんだけどね。


 そんなわけで、ダンジョン――いや地下秘密基地を建造中。


 地下巨大ドック――飛空船用の格納庫。開発室に物資倉庫、武器庫、基地司令所、作戦室などなど。

 さらに俺たちの居住区画――個室や食堂、トイレにお風呂、リクリエーションルームなどに使える空き部屋も用意しておく。


「主、近くの遺跡のほうはどうする?」


 ディーシーが問うた。拠点にしようと地下に魔力収集部屋を作った時、この近くに古代の遺跡があるとわかった。探索にも行ったんだけどね。


「今日のところは放置で。どうするかは今後、考える」


 森に冒険者たちが入るようになれば、いずれは遺跡にたどり着く者も出てくるのではないか。


 遺跡を秘密基地化せず、そのままにしておけば、周りの目を誤魔化すいい囮になるのではないかと思ったのだ。


 ただ、この地下秘密基地も含めて、人が簡単に寄ってこれない対策は必要だと思う。

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