第65話、防御魔道具を披露する


 王子様の身を守る装備ー!


 俺はストレージから英雄魔術師時代にこしらえた品々を取り出した。


 その1、カメレオンコート!


 光の屈折を利用した光学迷彩モドキの効果を発揮する外套だ。まあ、実際はポンチョだな。今の服装の上から着られるから、さっそくアーリィーに身につけてもらう。


「……」


 周囲に溶け込むカメレオンの名を頂戴したが、直接関係はない。


 あくまで光学迷彩モドキなので、姿を消すわけではない。だが普通に迷彩効果はあって、じっとしていると周囲の地形に溶け込んでいるように見える。だから戦闘でも微妙に距離感を狂わせることができるという代物だ。

 じっと動かずにいれば、遠距離からはまず発見できないだろう。


 雨具にもなるそれを身に付けたアーリィーの姿を見たオリビアは――


「優雅さに欠けるような……」

「魔獣の森で必要のない要素のひとつだな、優雅さって」


 オリビアは実用性を好むタイプかと思っていたから、少し意外だ。


 装備その2。加護の腕輪!


 銀製のその腕輪には、青い魔石が埋め込まれている。リング部分に魔法文字が刻まれ、防御魔法と警戒魔法が発動する。


 装着者の意思で盾のように防御膜を形成することができるが、装着者が不意を突かれた時でも警戒魔法により防御魔法が発動するようになっている。


「へぇ、盾みたいに使えるし、不意討ちも対策してくれるんだ」


 アーリィーは感心したように自分の左手首につけた銀の腕輪を見やる。オリビア隊長は――


「あの、ジン殿。その腕輪、私もとても欲しいのですが……」


 不意打ち対策に敏感な近衛としては、この手の自動防御の魔法具は垂涎の品だろうな。何せ、いざとなったら警護対象者の盾になるべく身を晒すわけだから。そこでやられて動けなくなるよりは、無事に任務が継続できるほうがいいに決まっている。


 装備その3。魔防の首飾り!


 太陽をモチーフにした金とミスリル銀を使った、ちょっと豪華そうに見える首飾りである。こちらは装着者の身体全体を魔力の層で覆う。その効果は、魔力の層に触れた一切の敵性攻撃魔法を霧散・無効化させる。


 要するに魔力で構成される攻撃性魔法を魔力の層が触れた瞬間に侵食し分解してしまうのである。魔法以外でも薄い魔力層が、炎や氷、雷、風などの効果を大幅に弱める。


「魔法が効かない……!」

「まあ、跳ね返す類じゃないから、パッと見た目は魔法を喰らったように見えるけどね」


 俺が言えば、オリビアは首をかしげた。


「その魔力層とやらに触れた魔法が無効ということは、加護の腕輪の防御魔法と干渉したりしませんか?」

「加護の腕輪の魔法は、アーリィーの周囲を球形のバリアで防ぐタイプ。魔防の首飾りは、その球形バリアの内側、ほとんど肌に接する部分に展開しているタイプだから干渉しないよ」


 さらに言えば――


「加護の腕輪のサーチは、対物、つまり硬いものを察知するのに優れているが、魔法的な攻撃には反応が鈍くてね」

「なるほど」


 ブルト隊長が頷いた。 


「それで二つの防御魔法具があるわけですな」

「私たち近衛にもぜひ欲しい装備です」


 オリビアも納得したようだった。

 勘弁してくれ。数を揃えるとなると、作るために消費する魔力のことを考えるだけでめまいがしてくる。


 最後に、飾り気のまったくないコバルト製の指輪を渡す。丸と三角、四角の紋章が刻まれているだけのシンプルなものだ。


「これは?」

「万が一の時に使うシグナルリングだ。君が迷子になったり、誘拐された時などに使ってくれれば、俺に君の居場所が伝わる」

「!」

「おお、それは便利な……!」


 ブルトとオリビアは食いついた。王族に迫る危険が暗殺ばかりとは限らない。交渉材料としての誘拐だってなくはない。もちろん、王族誘拐なんて極刑ものだが。


「丸を二秒ほど押すと、無音で位置を通報する。例えば誘拐された時などに、音を出さずにそれを報せたい時などに使える。喋れない時とかでも有効だ」

「ふむふむ」

「三角は、周囲に警報を発する。町中で周囲の注目を集めたい時などに使える」


 最後の四角は――


「同じリングを持つ者と魔力交信ができる。つまり遠くにいても会話ができるというやつだな。俺も同じものを身に付けてる」

「へー、ジンと会話できるんだ……」


 アーリィーがどこか嬉しそうな顔をした。そして例によってブルトは隊内の通信用にシグナルリングを欲しがった。


 近衛隊長を大変羨ましがらせる装備を一通り身に付けたアーリィー。なお武器は、先日のハッシュ砦防衛戦で化したカービン銃型魔法銃をメインに、王子様が出陣の折りに武装している王族用ショートソードの基本装備。


 カメレオンコートにはフードがついているから、それを被ったら現代風兵士かサバゲーマーみたいに見えるかも。


 アーリィーの装備を一通り確認してもらい、ブルト隊長に判断を仰ぐ。


 俺とアーリィーが常に一緒に行動するという条件で『OK』が出た。


「ただし、こちらも近衛なので、何人か同行させます」

「足を引っ張ってくれるなよ」


 ベルさんが皮肉げに言った。もっとも皮肉でも何でもなく本音だろうけどね。


 その時、俺のもとに魔力念話が届いた。


『主、聞こえるか?』

『どうした、ディーシー?』

『悪い知らせた。フメリアにワイバーンが一頭接近中だ』


 テリトリー内を監視しているディーシーからの通報。


「ワイバーンだと?」


 思わず声に出た。アーリィーやブルトらが驚く。


「なに、どうしたのジン?」

「ワイバーンがこの町に接近してるってディーシーからの通報だ。……あとどれくらいで来る?」

『もう間もなくだ』


 部屋の窓を開ければ、耳障りな咆哮が響いた。


 町の人々が慌てふためく。町のすぐ上を全長10メートル超えの飛竜が飛び抜けた。


「ワイバーン!」

「緊急事態だ!」


 ブルト隊長が、アーリィーの前に立った。


「お下がりください、殿下!」

「いいや、アーリィー。君はここで俺を見ていろ」


 俺は窓枠に足をかけた。


「ちょっと、やっつけてくる」

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