第62話、ギルドマスター、ルーガナ領へ
光のリングをくぐった先は、建物ではなく屋外でした。
「おおっ、ここは?」
完全装備のヴォード氏がキョロキョロする中、俺は口元を笑みの形に歪めた。
「ルーガナ領です。領主町であるフメリア」
「本当にルーガナ領なのか……?」
町を囲む外壁の内側に端にポータルがある。そこから俺たちが魔力で生成した四角い建物が複数見えた。
警備のシェイプシフター兵とゴーレムに頷きつつ、町の中央の広場のほうへ足を向ける。
「ヴォードさん」
「おう」
周囲を見回しながらSランク冒険者は続く。
「外壁の割に、中は広く見えるな」
「反乱軍との戦いで、かなりの建物に被害が出ましたからね。町の住民の数も減ってしまったので」
「なるほど」
ヴォード氏は目を細める。
「本当に町に繋がっていたんだな」
王都冒険者ギルドの一室に置いたポータルリングの先はどこぞの町だった――ヴォード氏は身を以て体験したわけである。
「祭りでもやるつもりなのか?」
広場近くから、ハンマーの叩く音がいくつも聞こえてくる。建材が並べられ、組み立て作業なども進められていた。
「冒険者が来た時のための準備というやつですよ」
俺は歩を進める。
「この領の治安のために冒険者に来てもらう立場ですから、拠点になる設備を急ピッチで作っています」
「ほう……」
感心するヴォード氏。町の住人が俺たちに気づいた。
「魔術師様ぁ、こんにちはー!」
「こんにちは」
「お帰りなさい、魔術師様!」
住人たちの挨拶に応え、軽く手を振る。ヴォード氏が俺を見た。
「ずいぶんと慕われているようだな」
「まあ、町の復興に力を貸しましたから」
俺は広場から見える建物――特に冒険者たちが利用するだろう建物を指し示した。
宿屋によろず屋、食事処、武具販売店などなど――
「武器か……。ちなみに商品はもうあるのかな?」
ヴォード氏が好奇心を覗かせた。一流の冒険者は武具に興味を持つものである。
「まだ全てではないですが、一応は」
俺とヴォード氏は、武具販売店を訪ねる。中に入れば、ドワーフの店主がいて、商品の陳列をしていた。
「魔術師様!」
「邪魔して悪いね。王都からのお客様を案内しているんだが……見てもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
初老のドワーフ店主が了承してくれたので、俺たちは並べられている武器を見やる。
「ルーガナ領と言えばミスリルの産地で有名だが……」
ヴォード氏が期待をにじませた。しかし残念――
「ヴォードさん、ルーガナ領でミスリルはもうありません。鉱山はミスリルを掘り尽くしてしまいましたから」
「噂は本当だったのか。残念だ」
そう言いつつ、ヴォード氏は棚の剣を見つめる。
「……ミスリルではなさそうだが、鉄でもない。魔法金属のようだが、これは……」
「コバルトですよ、ヴォードさん。コバルト金属の剣です」
「コバルトだと!?」
ヴォード氏は驚いた。
「あの、鉱山関係者から嫌われている、あのコバルトか?」
「嫌われているのは、ミスリルなどをコバルトに変えてしまうコボルトのほうなんですけどね」
俺はコバルトソードを一本、手にとった。
「巷ではミスリルの劣化版なんて言われていますが、これが中々どうして捨てたものでもないんですよ」
ヴォード氏に手渡す。剣を握り、構えてみせるSランク冒険者。
「ふむ、軽いな。ミスリルと大差ないようだが……。コバルト製の武器など初めてみた」
「無理もありません。コバルトの加工は一般の鍛冶職人たちでは無理。ミスリルと比較するとどうしても負けていますから」
でもね――
「そこらの鉄製のものより頑丈です。コバルトは魔法金属ですから、火属性を含む付与魔法との相性がいい」
これが普通の鉄の剣だったりすると刀身が熱で消耗し、破損しやすくなる。しかしコバルト金属にはそれがない。
「鉄以上、ミスリル以下か」
「それが適切な評価でしょうね」
俺は同意した。
「ミスリルはありませんが、コバルトで武具を作っています。魔法と相性がよく、そこらの鉄や鋼の武器より耐久性もありますから、それなりの値になりますが性能は保証します」
「コバルト金属でこしらえた武器、か。王都で手に入る金属武器より優れているとなれば、中堅以上の冒険者も購入の選択肢になるかもな」
武器を見るだけのために、ルーガナ領を訪れるのもありかもしれない、とヴォード氏は言った。
「冒険者たちがコバルト金属の武具を認めてくれれば、いずれは商人たちにもコバルト金属製品を売ろうかとも考えています」
「うむ、優れた武器なら買いたいと思う商人もいるだろうな」
「何なら冒険者ギルドにもコバルト武器、卸しましょうか? 確か、ギルド内に武具販売店があったような……」
「2階フロアにな。初心者冒険者用のレンタルや、クエストで武器を失った者たちがすぐに調達できるようになっている」
そこでヴォード氏は剣を棚に戻した。
「ジン、先ほど一般の鍛冶職人では扱えない代物と言っていたが、武器を作っているのは……」
「ええ、ドワーフたちです。人間には加工できないから避けられているコバルトですが、ドワーフの手にかかれば楽なものですよ」
一通り装備を見終わり、俺とヴォード氏は準備中の武具販売店を後にした。
「そうだ、ヴォードさん。よろしければ、領主の館に行きませんか? もし、王都冒険者ギルドから冒険者を派遣してくれるなら、王子殿下もご挨拶したいようですし」
「王子殿下が?」
ヴォード氏は腕を組んだ。
「まあ、そうだろうが……会えるのか? 特に約束もなしに、一冒険者が面会できるものではないだろう?」
「ヴォードさんは有名なSランク冒険者ではないですか。王族や貴族と顔をあわせるに充分な資格はあると思いますがね」
彼は知らないが、俺も連合国ではSランク冒険者だったからね。その辺は心得ている。
そんなわけで、俺たちは領主館へと向かった。
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