第61話、ギルドマスターと会談
冒険者ギルドの談話室。俺は王都冒険者ギルドのギルマスであるヴォード氏に話し込んだ。
討伐軍が反乱軍を撃滅し、その後、その土地を王子殿下が治めることになったのを簡単に説明。そして――
「ルーガナ領は荒廃し、領主町のみ復興した状態です。しかし近くにはボスケ大森林地帯があり、モンスターの脅威が存在しています。事実、一度、森から蛮族亜人のスタンピードがあり、討伐軍はこれを叩きました」
正しくは、俺たちウェントゥス傭兵組で退けたが、そこは言わなくてもいいだろう。
「ふむ」
「で、ボスケ大森林地帯ですが、俺たちが持ち込んだ通り、モンスターもそこそこ手強く、レアな素材がとれる狩り場でもあります。ただ、一度滅びた領ゆえ、冒険者ギルドがない」
「……それで、解体のためにわざわざ王都まで来たか。何となく理解した」
ヴォード氏は腕を組み、険しい表情だった。
「それで、王子殿下は我々に何を望む?」
「冒険者を派遣してもらいたい」
俺は簡潔に告げた。
「ボスケ大森林地帯で、スタンピードが起こらないように王都の冒険者で森のモンスターの間引きをしてもらいたいと仰せです。もちろん、冒険者たちが宿泊できる宿や食事処、武具の調達も手配してあります」
「なるほど。冒険者はモンスター退治のスペシャリストだ。領主の軍の兵よりもこの手の作業は冒険者のほうが長けている」
認めつつ、ヴォード氏の表情は硬い。
「だが何故、王都の冒険者なんだ? お前もルーガナ領を往復したならわかるだろうが、ここからルーガナ領に行くまでは数日から一週間程度はかかる。もっと近いところにも冒険者ギルドはあるだろう?」
予想通りの答えだ。だから俺は用意していた答えを出した。
「お声掛けした理由は、ここの中堅冒険者たちが暇を持て余していること」
ヴォード氏と、後ろのダークエルフ美女が不快げな顔になった。
「掲示板を見ました。下級の冒険者向けの雑用はありましたが、中堅以上のランクの冒険者を満足させる依頼が不足している。……違いますか?」
「……否定はできんな」
「正直、悩んでいたのでは? 腕利きの冒険者がよそへ出稼ぎに出て不在だったり、稼ぎを求めて地方に拠点を移したり」
「最近、冒険者登録をしたばかりなのに、よくわかるな」
ヴォード氏はニヤリとしたが決して表面通りに笑ってはいない。……どうやら、この王都ギルドの密かな悩みだったようだ。
稼ぐために冒険者はギルドを頼るのだ。だがランクに見合った仕事がないなら、その仕事がある場所への移動しようと思うのは自然なことだ。お金がなければ食っていけないのだから。
王都の冒険者ギルドとしても、仕事を探している冒険者たちにクエストを提案したいが、その仕事がないのではしょうがない。王都周辺が平和過ぎるのだ。
「それで、ルーガナ領に出稼ぎに来い、と」
「端的に言えばそうです。ただ懸念はわかります。ご指摘どおり、距離の問題がある。従来通りなら、単なる冒険者の引き抜きになってしまう……」
「違うのか?」
「違います」
俺は否定した。
「王都の冒険者には、王都の冒険者のままルーガナ領で仕事をして、また王都に帰ってもらいます」
さあて、ここが緊張の一瞬。
「王族よりお預かりした魔道具で、ポータルというものがあります。これを二カ所に設置することで、双方を繋ぐ転移門を作ることができます」
「転移門だとっ!?」
案の定、ヴォード氏とダークエルフ美女は目を見開いた。転移の魔道具だ。そりゃあ驚くさ。……実際は俺の魔法なんだけど。
「遺跡から発見したものと私も聞いていますが、詳しくは知りません。ただ、これを……そうですね、冒険者ギルドのどこかに設置すれば、瞬時にルーガナ領に行くことができます」
「……!!」
さすがのSランク冒険者も絶句している。俺は付け加えた。
「ま、ダンジョントラップにある転移魔法陣を踏むようなものと思っていただければ」
「……ちょっと待ってくれ」
ヴォード氏は手のひらを向けて、俺に黙るように態度で示した。彼は振り返る。
「ラスィア、どう思う?」
「転移の魔道具自体は存在しています。実物を見たことはありませんが」
ダークエルフ美女が顎に手を当てながら言った。ラスィアというらしい。
「転移魔法陣の例をあげましたが、充分あり得るでしょう。彼の発言が事実なら、王都とルーガナ領をわずかな時間で往復可能です」
美貌のダークエルフ美女は理性的な口調で言った。
「それこそ、大空洞ダンジョンに行く感覚で、ルーガナ領に行き、日帰りで王都に戻ることができます」
「距離の問題はなくなると言うわけだ」
そう言って、ヴォード氏は俺に向き直った。
「話の腰を折ってすまなかった。お前の言うことが本当ならば、王都にくすぶっている中堅冒険者たちもよい稼ぎができるかもしれない。……ボスケ大森林地帯から持ち帰ったというモンスター素材が本物なら」
「偽物だとでも?」
「いや、言葉のあやだな。素材自体は本物だろう。だがそれがボスケ大森林地帯のものかどうか、またはお前の話が本当かどうかを証明するものが何もない。もしかしたら嘘かもしれない――」
「騙す理由はないんですけどね」
「騙されてやる理由もないんだがね」
ヴォード氏は再度腕を組んだ。
「要するに、この目で判断しようというわけだ。簡単なことだ。オレがそのポータルとやらでルーガナ領に行こう」
「ギルドマスター!」
ラスィアさんが非難げな声をあげた。
「わかってる。オレを誘い出す罠かもしれないというのだろう。その時は、叩きのめすだけだ」
Sランク冒険者殿は不敵に笑った。俺とベルさんは顔を見合わせる。
「何か信じてもらえていないようだ」
「うまい話には裏があるってことだろうよ」
ベルさんは首を振った。
「まあ、いいさ。チョチョイと行ってこいよ。オレはここに残って、解体したモンスターの報酬を受け取っておいてやるからよ」
軽く人質役を買って出るベルさん。こちらとしてはヴォード氏らを罠にはめるつもりなんてないから、いいんだけどさ。
「じゃあ、ヴォードさん。今から転移しましょうか。……ポータルはどこに置きましょうか? 一度設置すると特別な方法でないと解除できないんですが」
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