第54話、これもひとつの錬金術?
ドワーフがおよそ四十人。新たにルーガナ領民として迎えた。
俺たちがコート鉱山をさらに調査した結果、ミスリル鉱石はほぼカス程度しかないことが確認された。
これを掘るコストと採算が合わないと予想されたため、ミスリルは諦める。
「ただし、魔力自体は豊富だ」
ディーシーは謳うように言った。
「数十年後には、ミスリルやその鉱石が生成されるだろう。ダンジョンコアが管理すれば、数十年と言わず、数年で鉱山として復活するだろう」
「数年?」
俺は首を横に振る。
「ダンジョン化したら、今すぐってわけにはいかないのか?」
「魔力はある。一から魔力を注いでミスリル鉱石を作ることはできるが、コストがべらぼうに高い」
ディーシーは眉をひそめた。
「後先考えなければ、それなりの量にはできるが、この土壌の魔力が回復するまで、次は作れないし、規模の割には効率はあまりよくないぞ」
ミスリルは優秀だが、物になるには自然の魔力では時間と量が必要だということだ。
「予定どおり、魔力収集場として利用するがいいだろう」
大帝国に対する反乱軍のためには、それが望ましい。しかし、このルーガナ領の運営に関してはあまり成果はないんだよな。
俺たちは坑道を出る。
外の空気がうまい。夕日が山々に降り注ぎ、赤く染め上げている。
何かミスリルの変わる資源でもあれば、領の役にも立つんだがな。普通に広い土地を開拓して農地にでもするしかないか。
「気になっていたんだけど……」
アーリィーが、朽ちかけ小屋の鉱山村を指さした。正確には村の周りの小さな盛り土の山を。
「あれは、この鉱山から出た岩とか土?」
「そうだな」
「あの中に、ミスリルが残ってたりする?」
「いや、あれはたぶんない」
俺たちは鉱山村――というには小屋が複数あるだけの簡素なそこを通過する。
「確か尾鉱と言う、採掘した鉱石の中で、使えない部分を捨ててできた山だよ」
ズリ山とか言うんだっけか。掘った石の中から必要な成分だけ抜いた捨てる石だ。
オリビアが不思議そうな顔をした。
「詳しいのですね、ジン殿」
「魔法金属や鉱石については多少勉強したんだよ」
これでも魔術師だからね。専用装備を作る際に、あれこれ素材を知らないと製作も頼めないからさ。
鉱石ってのは、掘られた岩の量に対して本当に使える部分ってそんなに多くないんだ。だから自然とゴミ山とも言うべきズリ山とかができちゃうわけ。
こうなるとほぼ鉱物のカスがあるかないかの、ほとんど普通の岩や土だから、地面を埋め立てたりするしか使い道がないんだよな。
いや、その残りカスを何とか集めて焼結原料にしたりできるんだっけか。
「……ゴミ山か」
「どうしたのジン?」
アーリィーが不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「錬金術って知っているかい?」
「れんきん術……?」
「鉄とか銅みたいな金属を、金に変えようっている術のことだ」
賢者の石とか、不老不死とか、そういうのも聞くけど、低位の金属を高位の金属に変換しようというテーマを錬金術と称していた勢力もあるらしい。
「要するに、このズリ山を他の鉱石に変えるってことだ」
俺はディーシーを見た。
「ちょいとお前の錬金術を見せてやってくれよ」
「話が見えないのだが、具体的にどうして欲しいんだ?」
ディーシーがズリ山に近づき、その山を見上げた。
「そうだな、わかりやすく、この土砂を金に変換してくれ」
「魔力を消費するんだが?」
「アーリィー、ディーシーに魔力を貸してくれるか?」
「いいよ」
王子様は同意した。俺が頷くと、ディーシーは手元にホログラフィック状のパネルを表示させた。
「変換効率は悪いぞ。何せただの石ころを金に変えろというわけだから」
その瞬間、ダンプカー2、3杯分はあっただろう小山が消えて、金のインゴットがひとつ、置かれていた。
「!? うそ、あれ金!?」
アーリィーとオリビアが驚いていた。ベルさんは肩をすくめる。
「あれだけ盛ってあって、インゴットがたった一つかよ」
「効率は悪いと言ったはずだぞ」
ディーシーは睨んだ。俺はニヤリとする。
「いやいや、あれだけ邪魔をしていたズリ山が綺麗さっぱりなくなって、しかも金のインゴットと手に入れたんだ。上出来だよ」
俺はアーリィーの肩を軽く叩いた。
「魔力使ったけど、大丈夫か?」
「え? うん。平気」
「それはよかった」
金のインゴットを回収する。さて、この手のズリ山はまだ鉱山村の周りにいくつもあって、長年のミスリル採掘の歴史を感じさせる。
「じゃあ、ディーシー。次は、鉱石の中で変換効率がいいほうのものと変換してみようか。どれができる?」
「鉱石という条件なら鉄鉱石だな。もっとも尾鉱からの変換だから、どうやっても消費魔力が元より高くなってしまうがな」
「鉄鉱石ってことは、鉄になる前だな。ちょっと魔力を余分に使っていいから鉄にしたものにしてくれ」
「わかった」
タンタンとなめらかなタッチ操作の後、先ほどのようにズリ山のひとつが消えて、ボトボトと鉄のインゴットが落ちた。カンカンと金属同士のぶつかる音をさせながら積み上がっていく。
「ちなみに、鉄としてはそのあたりの鉄鉱石基準で変換したから、あまりいい鉄ではないぞ」
「いくつある?」
ベルさんに聞いてみれば、彼は首をすくめた。
「さあね、5、60はあるんじゃね?」
「ただの土盛りだったのを考えたら、この数は上出来かな?」
「これが、錬金術……」
アーリィーが息を呑み、オリビアも声を上ずった。
「凄い! ただの山が鉄に変わるなど!」
「まだまだ、この鉄はもっと凄いものに変わる……予定」
俺は思いつきを試すため、鉄インゴットをストレージに集める。……結構、数があるな。
魔力さえあれば土や岩を金属に変換できる。まあ、ダンジョンクリエイトの経験からできるとは思っていた。役立たずの廃棄物を処理できて金目のものになったのは儲けものである。
だが、この鉄は、うまくやればもっと価値を上げられる――俺は思いつきを試してみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます