第47話、ハッシュ砦防衛戦
ボスケ大森林を出て、ハッシュ砦の前の斜面。とりわけ、緩やかな道になっている正面に蛮族亜人どもは殺到した。
こちらは8センチ速射砲で先制し、連続して砲弾を叩き込んだが、敵も中々怯まない。吹き飛んだゴブリンやオークの後から、ぬっと後続が現れる。
「各自、射程に入り次第、射撃開始!」
俺の指示を受けて、シェイプシフター兵たちが魔法銃器で攻撃を始めた。
魔法銃座が強力な光弾を連続して放てば、電撃銃座が野太い電撃を発射してゴブリンを焼き、なぎ払った。
ギャッと悲鳴が聞こえた。石像砲台が敵を識別した途端、自動で攻撃を開始。赤い光線がオークやゴブリンを狙撃する。
シェイプシフター兵らが手持ちの魔法銃を撃ち始めた。ライトニングの魔法と同等の電撃弾が亜人を貫き、打ち倒していく。
アーリィーも見よう見まねで、魔法銃を使って敵を撃った。おお! 盾持ちのオークを吹っ飛ばした。えげつねえ、さすが豊富な魔力。
さて、数十に及ぶこちらの射撃で、敵は数をすり減らしている。しかしその先頭は砦に着実に近づきつつあった。
「やっぱ盾持ちか」
魔法銃と言っても、所詮は魔法攻撃。主力の魔法銃は木製の盾を貫通するが、金属製の盾には効果が低い。アーリィーの強化魔法弾は貫通しているようだが、他の多数の魔法銃にその威力はない。
「ゴブリンばかりなら、防げたんだがな」
体格が小柄で、子供より多少マシな筋力のゴブリンに重装備はない。上位のホブコブリンになれば話は別――と思ってたら。
「噂をすればホブもいるじゃないか!」
オークに混じり、体格のよいホブコブリンが多数。さらに屈強なる大鬼であるオーガまでが現れた。
8センチ速射砲が火を噴く。いかにホブコブリンだろうがオーガだろうが、直撃すればミンチ確定だ。
しかし、たかだか4門の砲では限界がある。
武装したオークやホブコブリンが前線を押し上げる。砦への斜面を登る蛮族亜人に、自動砲台こと石像砲台が攻撃を加えるが、これも決定打になりえない。
「ジリ貧だよな」
まあ、予想はしていたけどね。
「アシッドレイン!」
俺は短詠唱で、斜面に迫る敵集団に酸を雨のごとく降らせる。金属すら溶かす魔法酸が蛮族亜人に降り注ぎ、至る所で悲鳴が上がる。装備を、皮膚を、肉を焦がし、溶かす痛みだ。たまらず武器や盾を傘代わりにするオークやゴブリン。
そのがら空きの胴に、シェイプシフター兵が銃撃を叩き込んだ。上と正面、二方向からの攻撃を同時に防げず、次々と倒れていく敵。
それならばと盾持ちが何人か集まって、数で自分と仲間たちを守りにかかった。
「バカめ。……あれ、撃て」
俺が指示を出すと、8センチ速射砲が密集している敵の中に砲弾を撃ち込んだ。固まったのが仇となった瞬間である。
そこへ指揮官マークをつけたシェイプシフター兵――ガーズィが俺のところにやってきた。
『3番速射砲が故障しました。2番、4番砲も砲身過熱により、射撃速度の継続が困難』
「3番は放棄。その他速射砲は、砲身冷却に務めろ」
『イエス・サー!』
さて、これで速射砲の火力があてにならなくなったぞ。おっと!
俺のそばを矢が通過した。前進したオークやホブコブリンの陰からゴブリンアーチャーが短弓やクロスボウを使ってきたのだ。
うーん、さすがゴブリン、姑息よな。
なお矢には毒が塗られていることがほとんどだ。
「エクスプロージョン!」
爆裂魔法、炸裂。速射砲の火力に頼れなくなるのはわかっていたから、ここまで温存してきたのよ!
斜面を半分くらいまで進んでいた蛮族亜人が爆発に飲み込まれた。味方を盾にしていた小型ゴブリンもまとめて燃焼だ。
「すごい……」
「アーリィー、見とれている場合じゃないぞ」
胸壁を盾にしているとはいえ、クロスボウを敵が使っているなら狙撃もあり得る。
『オーガ! 接近!』
比較的足が遅い大鬼どもが登ってきた。シェイプシフター兵が魔法銃を叩き込むが、集中砲火を浴びて、ようやく一体、二体といった具合。ドスドスと駆け上がってくるオーガども全てを倒す前に、こちらに踏み込まれるだろう。
「まあ、踏み込ませないんだけどね」
俺は対装甲魔獣用爆裂槍を浮遊させると、それらをオーガたちめがけて放った。超高速に加速された騎兵槍は俺の魔力に誘導されて一体に一本、胴体に突き刺さった。
だが厚い皮膚に守られたオーガの筋肉装甲は、槍の突撃を受けつつも耐えた。
「知ってる」
俺がパチリと指を慣らすと、爆裂槍のスイッチがつき、先端に仕込まれた魔石が爆発した。体の中から爆発し、オーガは次々に倒れた。……中には瀕死の者もいるが、どうやらそれ以上は動けないようだ。
オーガの後ろから登ってきたオークやゴブリンが前に出る。シェイプシフター兵が魔法銃に続き、魔石手榴弾を投擲した。
爆発。多数の破片が飛散して蛮族亜人たちを血だるまにする。敵の前進が止まった。
うん、そろそろ打ち止めかな?
俺は戦場を見れば、森から出てくる後続集団がなかった。数百はいた敵を、わずか30名そこそこで防ぎきったのだ。
といっても、まだ残っている亜人が数十いるんだけど。
「ディーシー?」
「ああ、残っているのはあの連中だけだ」
「掃討する。ベルさん?」
「待ってたぜ! 今度はこちらの番だ!」
砦に踏み込まれそうになった時の切り札として残しておいたベルさんがデスブリンガーを抜いて突撃を開始した。
「ガーズィ、ついてこい!」
『イエス・サー!』
シェイプシフター兵が一個分隊、暗黒騎士に続く。ディーシーが笑みを浮かべた。
「どれ、我も出しそびれた連中を出すか」
蛮族亜人の後背に、魔法陣じみたリングが浮かび上がる。ダンジョンコアによるモンスター配置。
出てきたのは岩でできたゴーレム、ストーンゴーレムだ。全高2.5メートルほど、腕が太くマッシブな印象を与え、大鬼にも引けをとらない。
だが異様な点がひとつ。その肩部に小型の石像砲台がそれぞれ1門ずつくっついていた。
以前、俺が『ゴーレムが離れた敵も攻撃できたらいいよな』って言ったら、ディーシーがゴーレムと砲台をくっつけたキメラ的ゴーレムを作り出したのだ。
ストーンゴーレム・キャノンタイプは、その分厚い拳で敵をぶん殴りつつ、肩のダンジョン砲台で魔法弾を発射。動きの遅さを武装でカバーする。
俺たちに包囲された蛮族亜人が全滅したのは、それから数分後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます