第46話、蛮族亜人の襲来


 グリフォンに乗ってハッシュ砦へ到着した。


 ボスケ大森林地帯と平原の間にある小高い崖の上に存在するその砦は、森からルーガナ領へ魔獣が流入するのを阻止するために作られた。


 崖が天然の城壁となっているので、ハッシュ砦自体の壁はさほど高くない。胸壁があって、弓や魔法による射撃が可能。左右には見張り塔があって、監視と共にここからの射撃もできた。


 反乱軍の本拠であるフメリアの町が陥落し、ここの守備隊は逃走していた。ベルさんと近衛隊による領内の残党処理の際も、この砦の様子が確認されたが、その時にはすでに兵は去っていたらしい。


 到着した俺たちは、さっそく防衛の準備にかかる。シェイプシフター杖ことスフェラを呼び出し、彼女にシェイプシフター兵を出してもらう。


 ディーシーには、防衛用に8センチ速射砲を要所に配置してもらう。その生成のための魔力にアーリィーがさっそく役に立った。


「4門だな」


 ディーシーが俺に告げた。


「砲弾や、戦闘での魔力使用を考えればこんなものだろう」


 森に向かって配置された8センチ速射砲。これらの操作、装填などをシェイプシフター兵が行う。


 以前の試し撃ちで、シェイプシフターは経験を積んでいるので、各兵たちもその操作に淀みがない。これが一般の兵士と違うところだ。


 スフェラの作り出したシェイプシフターは知識や経験が生成時に共有されている。だから作られた時点ですでにベテラン兵だったりする。普通の人間だったら、経験した者しか活かせない。


「しかし、森が近いから射線はあまり取れないな」

「射程を活かしてアウトレンジできる時間はさほど長くないか」


 俺は顎に手を当てる。飛び道具はあっても、比較的距離が近い。さらに装填時間もあるから、数で押し切られたら近接戦も充分あり得る。


 となると、火力を増やすしかない。


「ディーシー、壁の前に石像砲台を追加。適度に配置して弾幕の足しにしよう」


 わかった、と頷くディーシー。アーリィーが首をかしげた。


「石像砲台って?」

「ダンジョンに仕掛けられるトラップの一種だよ」


 壁とか出入り口の前に設置して、侵入者を感知すると魔法弾を発射して攻撃するやつ。ゲームとかだと割とお馴染みだけど、アーリィーはダンジョンに入った経験がないのだろう。


 宝玉付の高さ2メートルくらいの石柱が崖の前に生える。ディーシーがダンジョン・クリエイト機能でトラップを設置したのだ。


「あの柱が石像砲台」

「柱だよね?」

「あの上にガーゴイルとかモンスターの像が置かれたりするからね。モンスター石像の口とか目から光線が出る」


 今回のは宝玉部分から光弾が出る。柱にしたのは設置魔力の節約だろう。シンプルなほうが消費も少ないから。


 俺はストレージを開いて、これまで作ってきた武器を出して、シェイプシフター兵たちに配布する。アーリィーは興味深げに目を丸くした。


「色々あるね……」

「集団を相手にするからね。砲だけでは制圧できないだろうから」


 たとえば、魔法銃座。先ほどの石像砲台の宝玉部分をボックスに収め、三脚と引き金、照準などをつけて銃手で操作できるようにしたものだ。感知して射撃するまで隙ができやすい砲台の弱点を人が直接操作することで補う。


 そしてこの魔法銃座を改造した電撃銃座。光弾ではなく電撃を撃てるようにしたものも配置する。


「この槍みたいなのは?」

「オーガなどの頑丈な大型魔獣が突っ込んできた時に使う」


 騎兵槍のような形をしたそれは、先端に爆発魔石が仕込まれていて、突き刺した後、爆発の魔法が発動する。装甲を頼りに突っ込んできた敵に対抗する武器である。


「割と危ない武器だ。個人的には先端部分を飛ばせないかなって思ってる」


 そして、各シェイプシフター兵にボール型の手榴弾を配る。中は魔石で、爆発魔法が発動するように魔法文字が刻まれている。


「これは敵集団に向かって投げるが、爆発範囲のものは無差別に巻き込むから、慣れないうちは気をつけないといけない」

「うん」

「だから、君には渡さない」

「えぇ?」


 肩透かしをくらうアーリィー。俺は苦笑した。


「その代わり、この魔法銃を貸してあげよう」

「……皆が使っているものと違うみたい」

「ああ、魔力が豊富にある人用」


 アーリィーに渡して、握らせる。元の世界で言うところのカービン銃に似た形だ。持ち方を確認。


「銃身の下、ハンドガードって言うんだがそこに手を添えて。魔力を流し込むことで、魔法弾の威力を上げるように作ってある。……君はどれくらいの弾が撃てるかな?」


 ちょっと楽しみではある。


 その時、砦の前の森が揺れた。


「来たぞーっ!」


 ベルさんの声で、シェイプシフター兵たちが一斉に胸壁の裏について、武器を構えた。


 ディーシーが口を開いた。


「敵前衛、間もなく正面に出る」

「聞こえてきたぜ、足音が」


 夜の闇の中、木々が揺れている。ドドドと駆ける足音が近づいてくるのがわかる。


「いよいよだね……」


 ごくり、と唾を飲み込むアーリィー。緊張しているのは一目瞭然である。


「肩の力を抜いて。……オリビア副隊長、アーリィーから目を離さないように」

「ジン殿、殿下を呼び捨て――」

「来た!」


 森を抜けて先陣を切るのは、武装したオークの部隊。盾に槍、斧などを持ち、こちらの弓などの投射攻撃に備えて突っ込んでくる!


「8センチ砲、撃て!」


 爆発音と共に8センチ速射砲が火を噴いた。風を切った砲弾は射線に入ってきたオーク集団に突き刺さり、爆発した。盾を砕き、破片と衝撃波が蛮族どもを引き裂く。


「次弾装填、急げ!」


 シェイプシフター兵が8センチ速射砲に新たな砲弾を押し込んだ。


 着弾の煙を裂いて後続のオークやゴブリンが飛び出してくる。砲弾に怯んでくれればよかったのにな。


「スターシェル!」


 俺は光を放つ光源魔法を放った。照明弾ってやつだ。森と砦の前までを複数の光が照らす。


 暗視魔法で夜間視力を補う手もあるが、こちらが魔法弾を撃ちまくると、その光が目に悪過ぎる。だから初めから全体を明るくするのだ。


 そしてこの光は、暗い森から出てきた蛮族亜人どもには、少々眩しいのではないかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る