第44話、ダンジョンを形成したら……


「これはどういうことだ?」


 魔術師ラールナッハは、目の前に広がる瓦礫の山に呆然とした。


 反乱軍の本拠地であるフメリアの町。討伐軍によって急襲を受けた際、ルーガナ伯爵を殺害した大帝国の魔術師は、友軍と合流しようとメズーロ城を目指したのだが……。


「ここにあった城はどうなったのだ?」


 そして駐留していた反乱軍の主力はどうなったのか?


「まさか、討伐軍が……?」


 いやしかし、城を完全に破壊するなど、不可能ではないのか?


 場所は間違っていない。本来メズーロ城があった場所に瓦礫しかないのを見れば、理由は定かではないが、現実として受け入れないといけないだろう。


「どうやったら、城をこのような姿に……」


 ラールナッハは瓦礫の上を歩き、メズーロ城跡地を見やる。


 ただ城を攻めただけでは、ここまでの破壊は不可能だ。大帝国本土で採用されている新型の大砲が圧倒的な数の砲弾を叩き込めば、あるいは……。しかし、ヴェリラルド王国に大砲があるなど聞いたことがない。


「いや、残骸に火薬の形跡がない」


 焦げていないし、ニオイもない。城全体を吹き飛ばしたにしては、残骸の量が心なしか少なく感じられる。


 これはまるで――


「いや、そんなまさか……」


 頭の中にひとつの解答がよぎった。だがラールナッハは、それを否定する。


「あり得ない。ジン・アミウールは死んだはずだ」


 あの連合国の英雄魔術師なら、城ひとつを極大魔法なる究極魔法で破壊も可能だ。だが例の帝都防衛戦の直前に死亡したと報告を受けている。それがあり得ないの意味するところである。


「しかし、現実としてメズーロ城は消滅し、反乱軍主力も壊滅した」


 事は、大帝国による西方諸国侵攻にも影響する。ヴェリラルド王国内を引っかき回す反乱軍が壊滅した今、戦略の練り直しが求められる。


「飛空船に続き、魔人機まで失ってこのザマか」


 ラールナッハは踵を返した。王国に潜伏している仲間と合流しなければならない。そして今後の行動を決めるのだ。



  ・  ・  ・



 ボスケ大森林地帯の奥、おそらく未踏領域と呼ばれる一帯に俺たちはいた。


「やれやれ、やたらと元気がいいというか何というか」


 呆れた調子で言ったのはディーシーだ。俺とベルさんは、迫る魔獣を応戦中。


 黒い毛に覆われた大型の狼――剣のような角を生やしたそれはソード・ウルフと呼ばれる上級ランクの魔獣だ。


「よもや群れと遭遇するとは、ね!」


 俺はサンダーソードを手に加速。すれ違いざまにソード・ウルフの首を切り裂く。


「さすがに数が多いな!」


 ベルさんの大剣デスブリンガーは野菜を包丁で切るがごとく、簡単に両断する。


「ここまで来ると種類が多くて楽しいぞ。ふはははっ!」

「ハンマーエイプに、ブラッドアリゲーター……」


 俺はエアブラストを放ち、飛び込んできたソード・ウルフを吹き飛ばす。


「上級魔獣の見本市みたいだったな!」

「過去形じゃないぞ。現在進行形だ」


 茂みを利用して突っ込んできたソード・ウルフをベルさんが左手で掴んだ。ブンと力任せに振ると、ソード・ウルフ自慢の角が折れた。


 途端に犬のような情けない声を出すソード・ウルフ。暗黒騎士はそれを蹴飛ばした。


「ディーシー! そっちに行ったぞ」

「わかっているよ、ベルさん」


 佇むディーシーに、別のソード・ウルフがあっという間に肉薄した。


「すまんな。そこは我のテリトリーだ」


 踏み込んだ剣狼の足が地面に一瞬はまったかと思ったら、石柱が飛び出しその顎を砕いた。


「シャドウシフター」


 陰からシェイプシフター亜種が飛び出し、ディーシーの周りのソード・ウルフに逆襲する。それは蛇のようであり、狼のようであり、人間のようだった。その形容し難い何かはソード・ウルフ以上の速度で踏み込み、その体を引き裂いた。


「さて、こんなものか?」


 ソード・ウルフの集団は壊滅した。俺はサンダーソードをストレージに戻すと、例によって魔獣の死骸集め。


「どんなもんだ? まだ進むか?」


 ベルさんが確認すれば、ディーシーは小さく息をつくと、周囲をぐるっと見渡した。


「この辺りでいいだろう。主、許可を」

「許可する。ダンジョン生成」


 俺が命じると、ディーシーの周りに魔法陣が浮かび、魔力の風が周囲に吹き抜けた。


 ふと見上げれば、そろそろ暗くなってきたなぁ。まだ夕方には早いが森の中ゆえ、暗くなるのも早い。


「テリトリー拡張中」


 ディーシーは呟く。俺はさっさと魔獣集めを終えて、ダンジョンコアである彼女のそばに寄る。


「それじゃあ、ダンジョンを作ろうかね」

「フメリアの町に戻らないのか?」


 ベルさんが言った。


「アーリィー嬢ちゃんが、お前が帰ってこないって不安がるぜ?」

「みんなの前で『嬢ちゃん』なんて口走ることがないようにな、ベルさん」


 一応、国家機密なんだから。


「とりあえず……そうだな。魔力収集ポイントだけ作って、拠点作りはまた明日にしよう」


 ということで、ホロウィンドウを表示。ダンジョン・クリエイトを開始する。……ここの地下に四角い部屋を形成っと。


 それに階段を繋げれば――


 ゴゴゴっと音を立てて、近くの地面が崩れて地下への階段が現れた。


「現状、一部屋しかないダンジョン!」

「宝箱でも置くのかい?」


 ベルさんが皮肉った。


「ポータルと魔力収集用のコピーコアを設置する」


 明日に作業ができるようにするのだ。石の階段を下れば、石を削ったブロックの壁に覆われた大部屋があった。


 いかにも遺跡型ダンジョン。だが他の部屋をまだ作っていないから、これで行き止まりだがね。


「ディーシー、コピーコアを置いてくれ」


 呼びかけると、ディーシーが降りてきた。


「とりあえずテリトリー範囲の魔力がここに集まるようにしたが……ちょっと問題が発生した」

「何だ?」

「この森に、大量のゴブリン、オーク、オーガを確認した。言いたくはないが軍勢だ。それがハッシュ砦方面に動き出した」


 それって、ひょっとしてスタンピード?

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