第43話、ボスケ大森林地帯に入ってみた。


「未踏領域っていうから、期待したものの」


 暗黒騎士姿のベルさんはボヤく。


「ただの森じゃねえか」

「まだこのあたりは王国領じゃないのか? 入ってさほど進んでないし」


 俺は周囲を見渡す。


 鬱蒼と生い茂る森の木々。濃厚な魔力。まさしく大自然。緑のニオイが強すぎる。


「ホーンラビットは……」


 ベルさんが、足元に飛び込んできた角付きウサギをグリグリと踏みつけた。小さな断末魔が聞こえる。


「音で周囲のものを判別している。が、自分より大型の動物が近づくと、こいつらは何を血迷うのか全速力で突進をかましてくるんだなぁ。逃げればいいものを」


 人の足を突こうとしたホーンラビットを返り討ちにするベルさん。


「よくホーンラビットは初心者でも狩れる雑魚なんて言われるが、まずはその不意打ち同然の突進を避けてからの話なんだよなぁ」


 ベルさんは先に進む。


「小さいし、いきなり足元狙って出てくるからな。ガサガサって音がして身構えて止まった瞬間、足をグサリ」

「哀れ犠牲者は森の中で立ち往生」


 俺が言えば、ベルさんは周囲へ視線を飛ばした。


「こいつに足を突かれて動けなくなったところを、他の肉食獣に襲われて死ぬ」


 旅人や冒険者が角ウサギにやられるという話は、森に入る人間なら耳にたこができるくらい聞く。


「本当は怖いホーンラビット」

「でも肉は美味い」


 ベルさんがそう言うと、手にした大剣を地面に――いや飛び込んできたホーンラビットを貫いた。剣を引き抜くと、器用に剣先に持ち上げた。


「まあ、ウサギだからなあれも」


 俺は先を進む。ディーシーが後に続き、ベルさんは先頭を行く。


「主、右方向、大型魔獣が一体」


 ディーシーが警告した。ベルさんが身構えた。


「ようやく大物のお出ましか?」

「いや、残念ながらそこまで大物ではなさそうだ」


 ディーシーが否定すると、ガサガサ、と茂みをかき分ける音がした。


 魔力サーチによるとそこそこ大きな四足型の魔獣か。狼とかではなくて、ワニやトカゲ的な体型。大きさからすると恐竜的なものを連想する。


 音がやむと同時に茂みの向こうで魔獣が止まった。だが一拍置いて、その魔獣が飛び出してきた。


 出てきたのは、装甲トカゲ、ないし鎧竜と言われるアーマーザウラーだった。


 体長は五、六メートルほど。そのスタイルは四足の草食恐竜――アンキロサウルスに近いと言えばわかるだろうか。


 額から背中、尻尾の先まで板状の装甲をびっしりとまとっている。見た目どおり、生半可な物理攻撃を弾く重装甲が特徴だ。


「うわぁ、雑魚!」


 ベルさんがデスブリンガーで一刀両断にした。


 強固な外皮を持つアーマーザウラーも、あっさりと真っ二つになった。


「つまらん」


 死骸を一瞥してベルさんは先に進む。俺は、アーマーザウラーの死骸をストレージに収納する。


 後で解体したら素材は売り物に、肉は食用にする。アーマーザウラーの背中の装甲板は重量はあるが強固な防御力を誇る。重戦士が防具に好む素材である。


 さて、ここまでは序の口だろう。


 奥に進めば、もっと恐ろしいモンスターも出てくるに違いない。



  ・  ・  ・



「まさに大物!」


 ベルさんが跳んだ。


「相手にとって不足なし!」


 デスブリンガーを突き立てて、その胴体に一撃を入れる。


 森中に響いたと思える大音響。全長は森の中ゆえわからないが数十メートルクラスはあろう大蛇が、俺たちに立ちはだかった。


 ギガントヴァイパー。超巨大な大蛇の中の大蛇。口からは毒液を飛ばしてくる。


「ディーシー、下がってろよ」


 ベルさんがヴァイパーの背中に乗っているが、奴はまだまだ元気だ。俺に顔を向けて、その口を開く。


 フライ! 


 浮遊の魔法でジャンプ。ギガントヴァイパーから吐き出された毒液が、命中した木や草を溶かす。さわったら毒以前に溶けちまうんじゃねえのこれ! 


「邪魔するなよ、ジン! こいつはオレの獲物だ!」

「だったら、こいつに俺を攻撃しないように言ってくれ」


 アイシクル・ドライバー! 巨大氷柱を虚空に生成、ギガントヴァイパーの頭上がらその顔を上から串刺し!


 ブシャッ、と血が跳ね、大蛇の上下の口を貫通、しかし口が動かず悲鳴も出ない。


 ソニックカッター!


 ザンっ、とギガントヴァイパーの首が跳んだ。


「悪いな、ベルさん。倒しちまった」


 ズシンと地面にギガントヴァイパーの頭が落下した。のたうつ胴体だが、頭を失った結果、やがて力尽きて動かなくなった。


「……」


 ギガントヴァイパーの胴の上に乗っていたベルさんは首を振った。


「まあ、譲ってやるさ」

「そりゃどうも。この大蛇って、ランクどれくらいだっけ? A?」


 モンスターにもランクがつけられている。やってきたディーシーが言った。


「Sランクだ。下級のドラゴンよりは上だ」

「大竜よりは格下だがな」


 ベルさんは森の奥へと顔を向けた。


「先へ進もうぜ。歯応えのある奴がいればいいが」

「主、収納する前に、このギガントヴァイパーを解析させろ」


 ディーシーが、超巨大蛇の外皮に触れた。


「いいぞ」


 俺は、ストレージへ片付けるのをやめて、ディーシーのやりたいようにさせる。


「何気にコレクターだよな、ディーシーは」

「自分が使える魔獣が増えるのはいいことだよ」


 ディーシーは蠱惑的な笑みを浮かべる。美少女魔術師な彼女だが、三角帽子を被ったら魔女のように見えただろうな。


 まあ、コレクションしたい気持ちはわかる。彼女はダンジョンコアだからな。


 彼女がギガントヴァイパーを解析し、魔力と引き換えに生成できるようになったのを確認し、俺は大蛇の頭と胴をそれぞれストレージに収納した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る