第33話、現地へ飛ぶ


 第二次討伐軍は王都を出発した。反乱軍のいるルーガナ領へ。


 ただし、ルーガナ領に入る前には反乱軍に占領されたメズーロ城が立ちふさがっている。反乱軍がそれ以上の進撃をしていれば話は別だが、そうでなければ、まずは城を突破する必要がある。


 ……いやまあ、空を飛べるから迂回もできるっちゃあできるが。後ろに敵を残したくないんだよね。挟み撃ちされたらたまんないし。


「たかだが三百程度で城攻めか?」


 はっ、とベルさんは嘲笑した。


「先行した連中は攻城兵器を持っていなかったみたいだがな」

「いいよいいよ。俺たちはあいつらより先に行くから」


 ということで、俺たちとアーリィーとその従者、近衛隊20名は王都を出た。当然ながら、先行するザンドー隊と合流することはない。


「ようこそ、皆さん。ウェントゥス号へ」

「こ、これは!!」


 アーリィーとブルト隊長、そして近衛騎士たちは驚愕した。


 目の前には、飛空船が停船していたのだから。透明スキンを解除したことで露わになったウェントゥス号に、一同釘付けである。


「ジン! これ、どうしたの!?」


 アーリィーが俺の肩を揺さぶった。


「反乱軍から手に入れた船とは違うよね、これ!?」

「奪った船は、王国に献上したからね」


 俺はウェントゥス号の後部へ回り込み、昇降ハッチを開けた。


「こいつはあの船を元に作ったんだよ」

「作ったっ!?」


 王子様もびっくり。オリビア副隊長やクリントら、前の飛空船を知っている者たちも呆然としている。


「形が全然違う……」

「エンジンが四つもついてますね」


 飛空船の扱いについて多少知識がある近衛騎士は言った。俺は手招きした。


「ほら、早く。これでまずはメズーロ城へ行くんだからね」


 促された近衛騎士たちは船体下部の上陸艇から乗り込み、梯子で船体上部へと上がった。とりあえず近衛には船体上部後部の貨物区が空っぽだから、そこに乗って待機してもらう。


 俺とベルさんは操縦室に。アーリィーとブルトがついてきた。あまり広くないが、四人までなら席はある。


「発進する。適当に座ってくれ。……周りのものには触らないように」


 俺は注意すると、アーリィーは「わかった」と頷いた。操縦席につき、発進の手順に従ってエンジンを起動。コンソールに設置されたコピーコアにも確認……オールグリーン。副操縦士席のベルさんに頷くと、彼は発進を示すブザーのスイッチを入れた。船内に一回ブザーが鳴り響いた。


 今頃、上にいる近衛騎士たちが何事かとびっくりしているかもな。


「浮上!」


 ウェントゥス号がふわりと浮かぶ。ちら、と後ろを見れば、アーリィーは風防ガラスごしの景色に目を見開いている。一方のブルトは緊張の面持ちである。……アーリィーのほうが肝が据わっているかもな。


「ジン殿、これからの行動ですが……」


 ブルトが聞いてきた。そうだね、今後の話は大事だ。


「さっきも言いましたが、メズーロ城を目指します。反乱軍を王都方面に進出させないためにも、まずそこを叩く必要がある」

「城攻めですか」


 難しい顔をするブルト。アーリィーもつられて表情を曇らせた。だが、俺もベルさんもまったく悲観していない。


 俺たち、攻城戦は得意なんだよ。


「ちなみにですが、メズーロ城は破壊しても問題ないですよね?」

「破壊……?」


 キョトンとするアーリィー。どういうこと、と不思議がる彼女をよそに、ブルトは険しい顔のまま言った。


「攻城戦となれば、城が損傷するのは当然のこと。反乱軍を撃滅するためにも致し方ありませんな」

「了承を得たと判断します」


 たぶん、ブルトの思う破壊の規模と、俺とベルさんが思っているそれと違うんだろうな。

 でも言わない。下手に細部を詰めて、それはやめてと言われると別の手を考えないといけなくなるから。



  ・  ・  ・



 メズーロ城はルーガナ領に隣接するフレッドウェル領にある。


 非常に強固な城であり、巨大な城壁に囲まれたそれは要塞城の異名を持っているらしい。


 高さ10メートルほどの石造りの城壁は、敵対者の攻撃を幾度も跳ね返してきたという。


「難攻不落。攻略は大軍をもってしても難しいですな」


 ブルトは言うが、ベルさんは皮肉るのだ。


「そんな無敵要塞も、あっさり反乱軍の手に陥ちたもんだ」

「手引きがあったんだろうな」


 俺は思ったことを口にした。難攻不落の要塞があっという間に占領されるなんて、よほどの兵器が投入されたか、内通者が工作したか。あるいは最初から取引されていたのかもな。


「メズーロ城の周りには城に入りきらなかった反乱軍が陣地を作っているな」


 城にいる連中も含めて、千や二千はいるだろうか。


「よくもまあ、こんなに人数を集めたもんだ」

「ボクの印象なんだけど――」


 アーリィーは言った。


「あの反乱軍だけど、外国の人が結構いたと思う」

「ほう?」


 黒猫姿のベルさんが反応した。

 大帝国が飛空船を提供していたから、アーリィーの話も信憑性がある。


「反乱軍の陣地かい?」

「うん。聞き慣れない外国の言葉が聞こえた。それもひとつの言語じゃなくて、もしかしたら色々な国から来たのかも」

「外国の傭兵かな」

「お隣さんかもよ。ルーガナの領主ってミスリルの密輸で儲けてたんだろ? それでごろつきや傭兵を集めまくったのかも」


 ベルさんは指摘した。


「あり得る話だ」


 俺は頷いた。進退極まると本気を出すのが人間というものだ。


「しかし、外国からか……」


 結構集まったというのが、ちょっと気になるな。大帝国が関与しているようだから、ひょっとしたら傭兵を集めたのも連中かもしれんな。


 正規軍は連合国との戦いで忙しいから、治安の乱れになりそうな連中を集めて、よその国で戦わせる。


 戦地では戦災により生活の基盤を失った者たちが盗賊になる例も少なくない。それらが治安を悪化させるものだが、衣食住を提供すれば、人間は働くものである。


 武器をやるから外国で戦え。報酬は現地調達。好きなだけ奪え、好きなだけ儲けてこい――国で野垂れ死ぬのとどっちがマシかねぇ。


 その結果が、ブルート村の略奪か――ふと、俺は思った。


 まあ、普通に略奪大好き傭兵かもしれない。そこまで深い理由もないかもな。だがこれ以上好き勝手させるつもりはない。


 戦場に出たら――少なくとも、俺の敵となるなら公平に死を与えよう。

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