第28話、試射。とりあえず撃ちまくれ


 大砲の発砲音はかなりうるさい。


 こんなものを素で間近で聞き続ければ、そりゃ耳だっておかしくなる。


 俺たちは、ディーシーの魔力生成でコピーした大帝国製8センチ速射砲の試射を行っていた。


 シェイプシフター兵が所定の動作に従って砲弾を装填。尾栓でフタをして漏れないように完全に閉鎖。りゅう縄と呼ばれる発射紐をグイっと引けば、点火されて砲弾が発射される。


 遠方で着弾、地面をえぐって煙が吹き出した。爆音が聞こえる。


「大帝国はこいつを使ってる」


 ベルさんが不機嫌そうな声を出した。俺は頷く。


「まさにチートだよ。この世界じゃ魔法があるせいか、ろくな火薬武器はなかったのに、何世紀分すっ飛ばして実用化しているんだから」


 異世界の技術が用いられているのは間違いない。火縄銃――いわゆるマスケットをすっとばして、ライフリング実装済みの火砲だもん。


 この分だと大帝国はライフル銃も作っているんじゃなかろうか。


「言いたくはないが、そりゃ連合国だってやられるさ」


 歩兵や騎兵より、遥か遠くから攻撃できる兵器が出てきたのだ。近づくまでに戦力を減らされ、下手すれば一方的に叩かれるなんて、相手からしたらたまったものではない。


「大帝国の賢いところは、大砲を空飛ぶ船に載せたことだ」


 地上からは手も足も出ない存在である飛空船である。安全かつ、一方的に攻撃できるのだ。


「俺たちが見た時は、地上はゴーレム兵器で押してたな」


 人型の巨人――歩兵の武器ではまったく歯がたたず、弓や生半可な魔法も通用しない。連合国兵は文字通り踏み潰され、圧倒的パワーの前に吹き飛ばされていた。


「俺やベルさんならともかく、それ以外であの人型兵器に対抗するなら、この大砲くらいは欲しいよな」


 だが残念。速射砲も大帝国が持っている兵器なんだ……。滅亡の瀬戸際で格段に進化した兵器を投入するとは、大帝国もまた味な真似をする。


「大帝国に対抗する反乱軍を作るとなると、砲もないとなぁ」


 8センチ砲なら、車両に搭載することも可能だ。そうなると、戦車も欲しくなるね。大帝国の人型ゴーレム兵器に対抗するために、こっちは戦車を用意するとか。


 アニメとかだと、戦車って人型兵器に蹂躙される脇役扱いなんだけどね……。まあ、なんちゃらフィールドとか粒子とか、架空物質や技術がなければ、リアル戦車は人型兵器より強いというのがもっぱらだけど。


「大帝国が巨大ゴーレムを使っているとなると、こっちも対抗馬を用意したいな」


 リアルな話、敵の新兵器があれば、それと同じようなものが作られる。どこの世界でもそれは同じらしい。


 俗に言う兵器世界のイタチごっこ。

 その兵器に対抗する物が作られ、敵はさらにその兵器に対抗できる物を作る。兵器の歴史とはその繰り返しである。


 ベルさんが口を開いた。


「こっちも巨大ゴーレムを作る?」

「それが無難だけど、あれだけの大きさだ。人が乗り込んで操縦、なんてこともできるんじゃないかな」


 全高6メートルほどなら窮屈かもしれんが乗れなくはない。


 プログラムされている事柄には対応できるゴーレムだが、命令を出す人間とセットでの運用が望ましい。臨機応変な対応が難しいからだ。


 かといってゴーレム同士の殴り合いの場面は、ゴーレム使いにとっては危険そのもの。そのゴーレム使いが狙撃なりでやられたらゴーレムの制御に問題が出てくる。それならいっそ、ゴーレムの中で直接操縦できるほうがマシだろう。


「人型兵器の操縦……ロマンだな」


 アニメなどを思い出し、思わずほくそ笑んでしまう。ベルさんは首をかしげる。そのあたりをイメージできる人じゃないからな。しょうがない。


「駄目だな……」


 ディーシーが言った。8センチ速射砲の発砲が止まっている。シェイプシフター兵も首を横に振っている。


「どうした?」

「故障だ」


 ディーシーは答えた。


「長時間の連続射撃で消耗している。砲自体かなり熱をもっているし、着弾もばらけつつある」

「兵器として形になってはいるが、まだまだ耐久性に難あり、ということか」


 部品ひとつひとつの精度、質――工業技術の問題となってくる。大帝国は形は整えたが、基礎技術力がこれらの兵器の技術に追いついていないのだろう。


 一からコツコツやってきたものではなく、異世界チートで間を飛んで実用化したから、技術に歪みが出てしまっているんだろうな。


 俺のいた世界でもあったな。設計図もらったのに、それを構成する部品が作れないってトラブル。できる部品で作ったら劣化コピーになった、ってな。


「我らも魔力生成によるコピーを使っている」


 ディーシーは鼻をならした。


「モデルが大帝国製である以上、耐久性も精度もそれに倣えだ。解決するには独自に改良を施すしかあるまい」

「可能か?」

「我はコピーしただけだからな。改良については主も知恵を貸してくれ。ただ部品自体の耐久性を上げるくらいなら我でもできる。多少はやってみせよう」

「頼りになるな」

「そうだ、もっと褒めるといい」


 ディーシーは得意げになる。


「質がよくないとはいえ、こちらは魔力による再生処理ができるから、現状でも大帝国の同じ兵器よりは使えるだろう」


 消耗した部品は魔力を注ぎ込んで再生させる。その分、魔力を消費するが、部品を交換する必要がないので、修理の手間はかなり軽い。


 万人向けではないのがネックだが、俺たちが使う分には大帝国よりも継戦能力に優れていると言える。


 とはいえ、魔力がなくなれば、そういう再生も生成もできなくなる問題はある。


 今のところ、あらゆるところで魔力を使っているから、充分な量を確保、供給できるようにしておかないとな。


 この速射砲の砲弾だって、全部ディーシーがダンジョンコアのコピー能力と生成で作っているからな。


 ダンジョン・マネージメント。魔力の供給源の確保は、反乱軍創設のためにも急務と言えるな。


 魔力さえふんだんにあれば、それこそ飛空船や航空機、戦車やゴーレム型兵器も作り放題。人員はシェイプシフターを増やせばいいのだから、それなりの独自軍を作るのも夢物語ではないのだ。

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