第29話、大空洞探索攻略
魔力の供給源としてダンジョンを利用する。その第一歩として、俺たちは『大空洞』ダンジョンの攻略に乗り出した。
「帰りはポータルを使うから、今日は適当なところまで潜って日帰りだ」
俺は宣言した。
普通なら野営だったり帰りのことを考えたりで、装備や食料を持ち込むものだが、転移魔法であるポータルを設置すれば、次回からその場所から攻略できるということで、こちらは軽装だ。
俺とディーシーは魔術師スタイルで、ベルさんは暗黒騎士モード。
まずは入り口から始めて、初心者向けといわれる浅い階層に挑む。
「主、コウモリの群れが接近」
ディーシーが警告する。吸血コウモリの羽ばたきと声が無数に響く。
とにかく数が多い上に暗い洞窟内でも自由に飛び回るから鬱陶しい。
「サンダーウォール」
慌てず騒がず、雷の壁を形成する。群れで押し寄せてきた吸血コウモリが勝手に壁に激突して感電死していく。
「こういうのは、いちいち相手にすると面倒よな」
ベルさんが皮肉げに言った。
「魔術師でよかったなジン。近接系戦士や弓使いじゃこうはいかないだろ」
「まとめて叩けるのは魔法の利点だよな」
先へと進む。道中のモンスターを蹴散らしていけば、やがて第六階層へ到着した。
「ギルドで聞いた話じゃ、ここまでがいわゆる初心者エリアらしい」
ここから先はモンスターのレベルも上がってくると言う。ベルさんが首を振った。
「雑魚ばかりで退屈だったぜ」
スケルトンの群れとぶつかったくらいで、あとはスライムとかゴブリン・スカウトくらいだったもんな。下級ランクの冒険者でも倒せるやつばかりだから、俺やベルさんには物足りない。
「……明るいな」
広い場所に出たので天井を見上げる。先ほどの階層より下にあるにもかかわらず、天井がやけに高かった。
というより、どでかい空洞エリアになっている。天井が明るいのは何故だろう。太陽の光ではないが……。
「魔石、いや魔水晶か」
ベルさんが見上げながらそう言った。
魔水晶――魔力を含んだ鉱石で、その名のとおり水晶のようにやや透明。これが長い年月をかけて魔力を溜め込んで魔石となる。このダンジョン内の魔力を受けて、魔水晶が光っているのがこの明るさの原因のようだった。
「とりあえず、このフロアでは明かりはいらないな」
回廊上の通路を進む。端から下を覗きこむと、網の目のように無数の回廊があって底が見えなかった。いま歩いている回廊も段々下へと降りていくが、途中に分岐点がいくつもあるので、空洞内の行き先がここで分かれるようである。
「全部回ったら、どれだけ時間がかかるのやら」
「ディーシー、最短ルートを頼む」
「分岐を気にせず、真っ直ぐ行け」
スキャンによってマップを把握しているディーシーは迷うことなく告げた。
わかっているだけでも100階層あるんだろ? やべぇよな、このダンジョン。
「おい、ジン」
ベルさんが首を動かした。視線の先に冒険者と思しき四人パーティーが回廊の反対側から上がってくる。……戦士三、魔法使い一というところか。
「お帰り組か」
「いつまでもダンジョンに潜っていられるわけじゃないからな」
食料や装備が尽きる前に撤退も必要だ。その点、こちらは帰りを気にしないで済むのはありがたいことだ。
お互いに距離をとってすれ違う。冒険者パーティー同士だが、向こうもこちらも初対面。馴れ合う気がなければ、声はかけない。
冒険者にも色々いるからな。まともな奴もいれば、ダンジョン内で同業者を狙う悪党もいる。
結局、何事もなくすれ違った。
「あいつら、ベルさんのことを見てたぜ?」
「強者オーラが出ていたのかもしれんな」
冗談めかしたが、たぶん本当のところはそれだろうな。ただでさえ暗黒騎士スタイルは威圧感が凄い。
探索は続く。
「今度は森か?」
「ダンジョンってのは、摩訶不思議だよなぁ」
地下なのにやたらと植物が活性化しているフロアについた。魔力を多量に含んだ草花の中には有用な薬草がある一方、強力な毒草も存在する。
「やたら肉食系の植物が多いなぁ」
マンイーターがそのびっしり歯の生えた頭を伸ばして噛みついてきた。長い茎がまるで蛇みたいにうねるのは気味が悪い。それでいて頭でっかちで、口を開けば子供を一口で飲み込んでしまえる大きさがある。
ベルさんが大剣デスブリンガーで一刀両断にすれば、俺はサンダーソードで真っ二つ!
「せいっ!」
マンイーターのお次は、巨大な芋虫やハチ型のモンスター。初心者には少々厄介なやつらである。
まあ、俺たちには大した敵ではないんだけどね。
植物エリアを抜けると、今度は氷結フロア。大きなダンジョンの気候は、不自然を通り越して滅茶苦茶である。
ダンジョンコアのあるダンジョンってのは、ほんと複雑怪奇だ。
「うぅ、寒い……」
吐く息が白かった。さすがに雪はないが、床や壁が凍り付いている。だがよく見てみると氷に混じって魔水晶の姿もちらほらと。同時に、水晶に擬態している虫も。
「そういや、クエストにクリスタルスコーピオンの討伐依頼があったぜ」
ベルさんが地下に広がる広大な氷と水晶の空間を見渡しながら言った。さながら水晶の森である。
「ここにいるのかね?」
「クリスタルスコーピオンは水晶を喰らう」
ディーシーは周囲を見渡す。俺が寒さを感じているのに、このダンジョンコア娘はそんな素振りを一切みせない。
「可能性は高いな。どうする? 探して狩るか?」
「いいや、先に行こう」
出てくるなら倒すけどね。俺たちの目的は、ダンジョン制圧であり、モンスター狩りじゃない。
「で、今はどれくらい潜ったんだ?」
「十三階層だな」
「割と進んだんじゃないか。今日はこのあたりでお開きにしようか」
俺は人の目につかないあたりにポータルを展開する。次からはここからスタートである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます