第27話、大空洞に行ってみた


 そのダンジョンは、王都より東に行ったところにある。森林を越えた先にあり小高い山に、ぽっかりと穴を開けていた。


 大空洞。


 亀裂のように入った大きな空洞は長く、そして深くまで続いている。


 複数の階層から構成されているこの洞窟は、初心者向けダンジョンなどと呼ばれている。浅い階層で出現する魔獣が比較的弱いためだ。


 だがそれはあくまで上層の話だ。王都冒険者ギルドで聞いた話では、十数階層もある大ダンジョンであり、最深部まで攻略されていないのだという。

 下の階層に潜ると、強力なモンスターが出没するようになり、一気に上級者ダンジョンへと変わる。


 徒歩だと王都から数時間かかる道中を、ウェントゥス号で移動。さすがに空からだとあっという間だな。


 透明魔法効果で近場に着陸後、船はシェイプシフター兵に任せて、俺たちはさっそく大空洞へ足を踏み入れた。


 入り口の洞窟はかなり広く、幅十数メートル近くはあった。何だか昔映画で見た秘密基地の入り口みたいだ。


 ごつごつした岩肌が露出する洞窟内。入り口が広いために外の光がある程度照らしているものの、奥は真っ暗だ。洞窟探索の基本として、明かりは必須だ。


「ライト」


 ディーシーが唱えると、光の球が現れて周囲を照らした。見たところ、モンスターの姿はなし、と。


「……天然系ダンジョンっぽいな」

「だな。見たところ、ふつーの洞窟に見える」


 ベルさんが同意した。


「入り口だけでこれだけ広いと、横穴とか見落としそうだな」


 魔力放射――サーチ。放った魔力の波、その反射具合で周囲の地形や物体を感知する魔法である。


「ん? ……んん?」


 地形が結構でこぼこしているらしく、魔力震動の反射が読み取りづらい。……とりあえず、人や魔獣がいないのは確認できたが。


「さて、ディーシーさん、出番だ」

「うむ」


 黒髪美少女は、すっと前に出た。


「テリトリー」


 ディーシーの周りに淡い光が溢れ、ダンジョンの表面を撫でるように魔力の波が駆け抜けた。


 ダンジョンコアによるテリトリー化。支配領域を増やすことで、ダンジョンをコアであるディーシーが掌握する――


「むっ」

「どうした、ディーシー?」

「……このダンジョン、コアが存在する」


 ダンジョンコアありのダンジョンだったようだ。


「テリトリー化は中止。スキャンに切り換える」


 かなり大きなダンジョンと聞いている。その分、魔力も多いだろうが、それを支配しているのがここのダンジョンコアであるなら、領域浸食はこちらに不利だった。

 とりあえず、どの程度の大きさがあるか調べる。最低限、この大空洞の構造さえわかればいい。


「……お」


 ディーシーが顔を上げた。どうやら終わったようだ。


「マッピングできたか?」

「一応な。だが――」


 ディーシーはホログラフ状の大空洞のマップを表示した。


「うげ、思ったよりデカい」


 想像以上に深いダンジョンだ。十数階層? 数十階層の間違いだ。


 さらに途中の階層で道がかなり枝分かれしている。ちょっとした迷路のようになって複雑さを増している。


「おいおい、ジン。これ下で途切れてないか?」


 ベルさんが指摘する。かなり深い大空洞だが、最下層かと思っていた部分は走査できておらず切れていた。


「スキャン不可能領域……この先か、ここのダンジョンコアがあるのは?」

「おそらくな」


 ディーシーは眉をひそめた。


 最初のダンジョンと思っていたら、実はラストダンジョンでした、ってか? 俺は頭をかいた。


「ダンジョン掌握ができたなら、さっそく魔力収集場を作ってやろうと思ったが……。こりゃ保留だな」


 本格的なダンジョン攻略が必要だ。


「ちなみにこれ、全部で何階層?」

「100だ」

「100ぅ?」

「スキャン不可能領域の先にさらに階層があるかもしれんがな。それ以上はしらん」


 ディーシーが鼻をならした。俺も腕を組んだ。


「ちょっとやそっとの距離じゃないな」


 ポータルなどを駆使するとしても、しっかり準備したほうがいいな、これは。


 ベルさんが笑った。


「昔、オレたちで攻略した邪神塔を思い出すな」


 連合国にいた頃に挑戦したダンジョンである。懐かしい名前だ。あの時も苦労したな。


「それはともかく、このまま何もせずに帰るのも面白くない。ディーシー、とれる範囲で魔力を根こそぎ回収してやれ」


 広大かつ魔力が豊富なダンジョンだ。多少とったところで何ともないだろう。このまま特に成果もないのはしゃくだからな。


「承知した。せっかくだから少し粘ってやろう。魔獣が来たら対処よろしく」

「おう、むしろ暇つぶしにドンドンきてほしいところだぜ」


 ベルさんが暗黒騎士形態になった。


 さて、ディーシーが魔力を収集しているとなると、ここで俺が魔法を使って周囲の魔力を消費させては本末転倒だ。


 ということで、俺も武器でお相手するとしよう。……モンスターが出てきたら、だが。


「ま、俺の出る幕はないか」


 やる気のベルさんがいれば、大抵のことは何とかなるのだから。


 結局、2時間ほどいたのだが、ジャイアントスパイダーとスライムが現れた程度で、特に仕事もなく、魔力回収作業は終了。


 俺たちは大空洞ダンジョンを出て、空中待機していたウェントゥス号の迎えを受けて、王都に帰還した。

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