第26話、魔力を手に入れる方法


 王都冒険者ギルド。


 入り口1階フロアに隣接する酒場に俺たちはいた。ランチタイムである。肉入りスープと硬い黒パンをもしゃもしゃと。


 ベルさんは人間形態である。暗黒騎士姿ではなく、浅黒い肌の長身イケメン。ちょい悪オヤジ風の細マッチョだ。


「――ダンジョンへ行くって?」


 水分補給とばかりにエールをごくごくとやるベルさん。魔法でちょっと冷やしているから美味しさマシマシ。


「ウェントゥス号を動かすには魔力が必要だ」


 俺はパンをスープにひたす。


「ディーシーやベルさんが魔力をいっぱい持っているからって、人力ってのもどうかと思う」

「まあ、オレは規格外だけど、普通の人間ならとても飛空船を動かす魔力を供給できんだろうな」


 魔王様は豪快に笑った。周囲には荒くれ冒険者たちが食事をしているが、だいたい似たよう感じなので、いちいち気にしている者はいなかった。


「大帝国は飛空船を本格的に運用し始めているだろうね。だから飛空船規格の魔力タンクとかあるんだろうけど、そいつを盗むのはちと遠すぎる」


 安いガソリンを調達するために遠出するが、その行き帰りでガソリンを消費する自動車。多少高くても地元で買ったほうがトータルで見たら安かったのでは説。


 どこまで調達に行ったんだよ、というツッコミが入りそうだが、俺たちが大帝国まで往復するというのはそういうことだ。


 いずれは大帝国本土にポータルなりを置いて、敵さんから物資を調達するのもやろうとは思っている。


「大気中の魔力を吸収して自動回復する魔道具を作ろうとは思っているんだけどね」

「大竜の魔石は?」


 ベルさんがパンをかじった。


 大竜とは上級ドラゴンであり、かつて俺たちは、世間を騒がした大竜を複数討伐している。


「あれは相当な魔力を秘めているだろ。そっから抽出したらどうだ?」

「でもいずれはなくなるだろ?」


 魔獣には魔石と呼ばれる魔力の塊を持っているものがいる。ドラゴンなどはまず間違いなく持っていて、魔法武器などに用いられる。


 それ自体が、その魔獣の能力などを持っていて使ったりできるのだが、実際のところは電池みたいなもので、保有する魔力を失えばただの石ころだ。一応、回復させる方法はあるが。


「大竜クラスの魔石は他の用途に使いたいね」

「魔力自動車のエンジン」

「それは言うなよ、ベルさん」


 俺は苦笑する。初めての魔力自動車の動力は、大竜の魔石を使っているのだ。


「とにかくだ。飛空船を運用するために、まとまった魔力が必要だ。……軍を立ち上げようとするためにもな」


 飛空船ができたばかりだけど、解析した速射砲を利用した戦車とか、小型の戦闘機とか構想しているのだ。それらも燃料はおそらく魔力になる。


「兵隊はシェイプシフターでどうにかなる。ベルさんも帝都で見ただろう? 連中の飛空船や巨大ゴーレムに対抗するには、こっちも近代的な兵器が必要なんだ」

「そうかなぁ」


 ベルさんは不敵な笑みを浮かべた。


「オレやお前なら、生身でもあれに勝てるぜ?」

「ひとつや二つならな。数を相手にするのは、さすがに無理がある」


 まあ、ベルさんは魔王だから、複数もメじゃないだろうけど。少なくとも、俺は無理だわ。


「そこで魔力の供給源としてダンジョンを利用する」


 この世界は、ありとあらゆるところに魔力が存在する。大地も空も海も、植物も動物にも。……もちろん人間にも。


「世界には、魔力が密集する吹き溜まりが存在する」

「その中で特に濃厚に魔力が集まるのがダンジョンだ」

「解説どうも、ベルさん」


 ダンジョンと一括りにしているが、実際のところ、その種類は豊富かつ雑多だ。天然の洞窟のようなものがあれば、古の魔王や魔法使いが作った拠点を兼ねた人工的ダンジョンもある。


 天然系のダンジョンは、地形的に魔力が集まりやすい場所にあり、その豊富な魔力に引き寄せられる形で魔獣を含む獣や他の動植物が集まり、ひとつの生態系を形成する。


 ただの洞窟の可能性もあるが、魔物が棲みついているならダンジョン、とこの世界の人は言うので、ダンジョンなのだろう。あまり気にしてはいけない。


 そんなダンジョンの中でも、時々ダンジョンコアと呼ばれる不思議物体が発生することがある。


 源流を辿れば、人工ダンジョンの管理装置と言われていることが多いが、天然ダンジョンにも確認されることがあるので正直謎だ。


 ディーシーも、元は迷宮ダンジョンのダンジョンコアだったが、俺とベルさんの冒険の末、手に入れた。ちゃんと人語を理解している分、おそらく古代文明時代に作られたものだと思う。……彼女にその記憶がないので、本当のところはわからないが。


「それで――」


 ベルさんがご馳走様と手を合わせた。


「ダンジョンに行って、そこにある魔力を根こそぎ持っていこうってことか」

「少し違う」


 俺は残しておいた肉を口に放り込んだ。


「……確かに魔力が豊富なダンジョンの魔力を根こそぎ奪うのは、ディーシーならできるだろう。ついでにダンジョン内の魔獣の発生を抑制できて、スタンピードなどの災害も起こりにくくなる」

「いいことずくめだろう? 土地の治安も守れて」


 ニヤリとするベルさんに、俺は首を小さく振った。


「そうなんだけどさ、いっそ、ダンジョンそのものを管理しちゃおうって考えたんだ」


 こちらの管理するダンジョンコア――正確にはディーシーのコピーコアをダンジョンに設置して、魔力を恒久的に集めて回収できるようにしておこうってプランだ。


「ダンジョン・マネージメント。……軍を作って必要となる魔力を、魔力が勝手に集まって吹きだまりになるダンジョンから入手する」


 魔力収集ができる上に、魔獣の異常発生なども人の手によって制御、阻止できる。幸い、俺たちには、ディーシーというダンジョンコアがある。ダンジョン管理のプロが、すでにこちらにいるのだ。


「やり過ぎると冒険者が失業しちゃうんじゃねえか?」


 近くにその冒険者たちがいるのに、ベルさんは皮肉った。


「彼らに必要な分は残すさ。根こそぎ奪ったら、それこそまずいだろ?」


 こちらでコアが管理できれば、冒険者の死亡率も下がるんじゃないかな。魔獣と戦うというリスクを冒している冒険者は、間違えれば死亡、あるいは一生ものの傷を受けることも珍しくないのだから。


「王都から比較的近い場所にダンジョンがあるというし、いずれは王国にあるダンジョンを管理したいね」


 ご馳走様でした。肉があるだけ、マシな料理で腹を満たし、俺たちはクエスト掲示板を参考がてらに眺めた。


 ダンジョン絡みの依頼を見れば、どういう魔獣が出るのか、どういうダンジョンなのか推測できるのだ。

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