第24話、飛空船を作ろう


 王都の観光もそこそこに外へと出る。巨大な門には中に入ろうしている人々の列ができていて、王都警備の兵が審査をしている。


 出る時も審査があるが、冒険者プレートを持っているとスムーズに進んだ。


「新人か。まあ、気をつけて行くんだぞ」


 そう言って見送ってくれた中年の門番。冒険者の顔もそこそこ覚えている人かもしれないな。俺とお初だから、声をかけてくれたのかもしれん。


 大丈夫です、元Sランクですから!


 ということで、王都スピラルの外へ。来たときは空からだったから、広大な平原かと思ったら、割と丘陵もあった。平原ばかりじゃないんだな。


 王都から比較的近い林を目印に、そこまで移動。町の外に出れば魔獣がいるのが当たり前の世界ではあるが、幸か不幸か、遭遇はなかった。


 俺とベルさん、そしてディーシーは人がいないのを確認して、早速話し込む。


「飛空船を作るぞ。ディーシー、クリエイトモード」

「テリトリー展開。……まあ、範囲は最小でいいだろう」


 ダンジョンコアの人間モードである黒髪美少女は小さく手を動かした。周りに淡い青い光が現れ、準備万端。


 ダンジョンコアの所有者である俺は、その権限にてダンジョン製作モードの表示を開く。


 本当はダンジョンを作るためのクリエイトモードなのだが、ディーシーが記録している物は何でも作れるという点を利用して、今回飛空船を建造する。


 これまで何度もそういうクリエイトモードを利用してきたから、ディーシーのほうも製造可能なものを分類してくれている。


「大帝国の船と同じじゃあ芸がないよな」


 基本船体は、ディーシーが解析した飛空船を流用。左右に張り出したエンジンの位置や構造はそのままにして――


「ブリッジが上にあると、下が見にくいよな……」


 大帝国船を鹵獲して、いざ動かそうとした時、艦橋の真ん中にいると船体より下が見えなかった。


「飛行船のように、艦橋は船体の底にするか」


 元の船には船首底側に砲がついていた。上から地面の敵を一方的に撃つ武器だ。敵対勢力に空を飛ぶ術がない以上、飛空船の武装は下向きにあるのも理解できる。


「すると、側面にある大砲は……」

「空を飛んできた敵に対抗するためじゃねえか?」


 ベルさんが、俺の操作しているホログラフタブを覗き込んだ。


「そうだな……たとえばワイバーンとかに対抗するためとか」

「なるほど」


 この世界じゃ飛行する魔獣もいる。襲われた時の備えも必要ということだ。しかし、これは……。


 ディーシーが解析した大帝国の船搭載武装のデータを表示させる。


 8センチ単装速射砲。……こいつは帆船時代ではなく、第一次世界大戦かそれ以降レベルの武器じゃないか?


 多少ミリタリーかじっていた俺から見ても、この砲は想像以上に進んでいる。この世界ではまだ生まれたばかりの兵器のはずだが、そうは思えないほど、すでにシステムが完成されている。


 ……こりゃあ、異世界人の技術を使っているな。


 俺自身、大帝国に召喚された口だ。兵器の生け贄なんて役目だった俺と違い、知識のある奴が召喚されて、大帝国の兵器を何世代も進化させたに違いない。


 まあ、コピーしちゃうんだけどね、これ。


 ダンジョンコアの解析能力で、この火砲も利用させてもらう。……8センチ砲か。船舶搭載だけでなく、地上に置いて使うのもいいな。


 俺のいた世界じゃ、高射砲という空の敵に対抗する大砲を戦車に載せて、大活躍しまくったやつがいた。第二次大戦時の最中に登場したドイツ軍の誇るティーガー戦車がそれだ。


 戦車かぁ。大型魔獣を戦車砲でぶち抜くとか、ロマンだ……。


 と、今は飛空船だ。


 艦橋を下に持ってくるから、船首下にある砲は、正面視界の邪魔になるので撤去。ただそうすると、下への攻撃手段がなくなるから、船体側面にある速射砲を下にも向けられるようにしよう。


 側面速射砲は俯角、つまり下へ向けられる角度が狭いから砲の俯仰範囲を拡大して、射撃可能範囲を広げよう。


 下へ向けて発砲するシステムは、撤去した船首下にある砲が装備していたので、これを応用すれば可能だ。


「……」

「どうした、ジン? 黙り込んで」

「いやね、砲の射撃範囲を広げても、この速射砲は地上の敵やでかい標的用で、高速で飛行する物体には、あまり当たらないと思う」


 昔は飛行機に対して、地上の兵器や海上の船は大苦戦を強いられたんだ。ミサイルがなかった時代、対空砲火や機銃で狙うにしても、高度な射撃管制装置がなければ、中々当てられなかった。


「たぶん、大帝国もそのあたりわかってないんだよな」


 ガチでワイバーンとかに対応するつもりなら、こんな速射砲が2門だけとか役不足だ。


「ベルさんならこんなもん躱して、船を沈めるのも簡単だろうな」

「フフン、まあな」


 黒猫の姿をした魔王様は鼻で笑った。


「そうなると対空用の装備がいるな。……魔法銃を改造すれば、いけるかな」


 と、ああだこうだ言いつつ、俺は設計作業を進める。


 俺自身、空を飛ぶ乗り物の設計なんて初めてだ。だが基本的な飛行データは、大帝国船のそれをベースにしているので、装備が適切ならば飛行自体は問題ないはずである。よほどエンジン出力を無視した重量物の増加とか、船体のバランスを崩すようなものを取り付けなければ……。


 ということで、図面を起こした頃には、退屈したベルさんが昼寝をしていた。


 いかにも船というスタイルに、左右にエンジンをつけたデザインだった大帝国飛空船だったそれは、艦橋が下にきたことで、上面がかなりすっきりしたものとなった。


 元の艦橋があった位置がかなり下になったことで飛行船のようなほぼ平らなシルエットになっている。一応、サブブリッジを設置したので、わずかに盛り上がってはいるのだが。


 船体中央左右に伸びるエンジンは、ほぼ変更せずそのまま。


 船体下面は、船首下にあった連装砲を撤去。ベース船では貨物区画のでっぱりがあった部分は、分離できる上陸艇をくっつけた。


 まあ、上陸艇というか艦橋をすっきり小型化して、地上と空中を往復する連絡機として使えるようにしたのだ。


 飛行船でいうところの下面についているゴンドラを想像してもらいたい。操縦室があって小型のプロペラとエンジンがついているやつ。


 あれを、本体と分離して移動できるようにしたのだ。だからベース船ではひとつだった浮遊石を、この飛空船にはふたつ搭載している。


 まあ、なんで分離機能をつけたと言えば、飛空船の着陸スペースの問題だ。平原はいいが、それ以外だと船体がでかいから降りられる場所が限られてしまう。だがそれより小型の機体なら着陸できるスペースも増えるからね。


 ブリッジのある小型機のほうにもエンジンを2基――これはディーシーに構造解析してもらった上で小型に調整してもらったものを取り付けた。


 船体外観でいえば、エンジン4基を積んだ飛空船に見える。


 そうそう、小型機のほうには翼をつけておいた。浮遊石で垂直離着陸もできるから、あまり意味なさそうだが、主翼のフラップを利用して多少旋回性能を上げようという魂胆。


「さあ、やるぞ!」

「主よ、これを生成するには魔力がシビアだ」


 ディーシーが構造図から割り出した魔力消費値を計算して言った。


「生成させるつもりなら、そこで寝ている黒猫魔王にも魔力を提供してもらったほうがいい。死ぬぞ」

「おぅ……。ベルさん、起きてくれ」

「んあ? 朝か?」

「昼だよ。飛空船を作るぞ、魔力を貸してくれ」

「へいへい……」


 むにゃむにゃ、と黒猫様は、まだ寝ぼけている様子だが、俺がディーシーに合図すれば、彼女はテリトリー内であるベルさんの体から魔力吸収を開始した。


「クリエイト!」


 ディーシーが言えば、俺の体からふっと魔力が抜けた。一瞬の立ちくらみのような現象。ベルさんがある程度負担してくれているからよかったものの、マジで意識失っていたかもな。


 そして目の前に光りが溢れ、我らの飛空船が形となった。やったぜ!

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