第11話、王子様救出


「な、んだと……!?」


 フードの男は愕然とした。


 正体を見破ったヴェリラルド王国王子を腹いせに痛めつけたようと、その服を破ったら、裂かれた服の下から、女のそれにしか見えないふっくらした胸が露わになったのだ。


「お……女っ!?」

「……くっ」


 顔を背けるアーリィー。


 王子であるが、一見すると少女にも見える顔立ちだった。その体つきも男としては貧弱そうに見えたが、まさか女だったとは誰も思っていなかった。


 これにはフードの男――ジャルジー公爵も表情も固まった。次の瞬間、さっと赤みが差す。


「くそっ! 身代わりか!」


 俗に言う影武者である。王子そっくりの偽者。


「元より女々しい顔だったが、まさか替え玉に女を使うとは!」


 ジャルジーは背後のルーガナ伯爵に向き直った。


「本物の王子はまだ近くにいるはずだ! 探し出せ!」

「はっ、はいぃ……!!」


 太った中年貴族は大慌てで、部下に『兵を集めろ!』と怒鳴りながら天幕を出て行った。ジャルジーもまたそれに続く。


 残されたのは兵が複数人。


「おい、これ、どうするよ?」


 兵のひとりが同僚に声をかける。


「替え玉ってことは本物の王子じゃないんだろ。見張る意味あるのか?」

「じゃあ、どうするんだ? 殺すのか?」

「だろうなぁ」


 別の兵が言った。しげしげと拘束されたアーリィーを見つめる。


「でも、どうせ殺す前に、ヤッちゃわね? 最近タマってんだよなぁ」

「……!?」


 兵たちは動揺した。しかしその兵は続ける。


「どうせ殺しちゃうんだ。だったら少しばかり楽しんでもいいんじゃねえかな?」


 ゴクリ、と兵たちはツバを飲み込んだ。


 戦場に出て、気が立っているというのもある。命を賭けて戦いの場にいる身である。いつ次のお楽しみの機会があるかわからない。むしろ、反乱軍にいる以上、その機会もないかもしれない。


 だったら――


「女は女だ。それに、割といい女じゃねぇか?」


 途端に厭らしく顔をゆがめた。


「マワせマワせ……!」


 やめて――アーリィーは震える声で、そう口にしたが、兵たちの耳には届かない。目の前の若い娘を前に、彼らの性欲はたちまち頂点へと達したのだ。


 男たちの手が伸びる。逃げようにも逃げられない。少女が恐怖に震える様は、彼らにとっては情欲を高める効果しかない。


「げへへ……」


 誰か――王子だった娘は俯いた。助けて……!


「――これはマジでギリギリだったか?」


 新たな声と気配が、天幕に入ってきた。


 思わず振り返った兵たち。刹那の間に、その首が飛んだ。


「助けにきましたよ、王子様!」



  ・  ・  ・



 俺がシェイプシフターネズミの案内で天幕に飛び込んだ時、囚われの王子様のそばに兵たちが群がろうとしていた。


 とっさに危険なニオイを感じて、反乱軍兵に接近。異空間収納よりサンダーソードを抜剣。傍目には、俺の手から剣が出てきたように見えただろう。


 剣に紫電が走り、その一閃で一番近くにいた反乱軍兵の首が飛んだ。


「助けにきましたよ、王子様!」


 俺は次々にサンダーソードで兵どもを切り捨てる。天幕の中で、人が集まっているからもう直接斬ったほうが速い。魔法を王子様に当てるわけにもいかないしな!


 兵たちにとっては不意打ちも同然で、立ち直る余裕もなかった。とっさに剣を抜いた奴もいたが、俺の魔法剣であるサンダーソードが装備ごと一刀両断にする。


「斬り捨てご免」


 最後の兵を倒し、王子様のもとへ――


「いま、お助け……え?」

「……」


 王子、だよな? 女の子のような顔立ち。はっきりいって美少女顔だ。しかしそこではなく、破られた服、その胸元から女のそれとしか見えない膨らみがあって……。


「お、女の子……?」


 囚われの少女は答えない。顔を背けている。


 俺はサンダーソードを使い、彼女の拘束を両断した。


「大丈夫か?」


 乱暴はされてない? 俺はマントを少女に羽織らせる。


「俺はジン。ジン・トキトモだ。ここには近衛隊に頼まれて、囚われの王子様を助けにきたんだけど……」


 説明しながら、俺はその少女をまじまじと見つめてしまった。


 可憐だった。


 金髪に緑色の瞳、少女の面影残る顔立ちも素敵だ。……つまり俺の好みにドンピシャだったわけで、つい見とれてしまったのだ。


 華奢な身体だが男装しているせいか、妙にムラムラしてくる。


「近衛隊……? いるの!?」


 王子の格好をした少女が顔を上げて俺を見た。あ、やばい。俺、一瞬心臓止まった。


「ブルト隊長たちは、この反乱軍陣地の外で待機しているよ。えっと……君、王子じゃないなら、誰?」

「あ……うん」


 少女は目を反らした。少し逡巡したが、意を決したようで俺を見つめ直した。


「これには深い事情があるんだ。ボクはアーリィー。ヴェリラルド王国の王子だ」


 王子……。うん、でも王子って男だよね?


「ボクの性別のことは国家機密だから、絶対に他言無用だよ。わかった?」

「あ、ああ」


 コクコクと頷く。王子は実は女の子だった! 確かにこれは国家機密だわ。


 そこで少女――アーリィーは小さく息をついた。


「まず、助けてくれてありがとう。おかげで助かった」

「どういたしました」


 とっさに返事したらおかしな言葉になっていた。アーリィーにクスリと笑われてしまった。


「いたしました?」

「いたしました。ええ、いたしましたとも」


 さて、とりあえず脱出だ。外もにぎやかになっているようだ。怒鳴り声や兵たちが駆ける音が聞こえる。


「敵……?」

「俺の仲間が陽動をしている」


 ベルさんたちが攻撃を開始したようだ。それで陣地内が騒がしくなっているのだ。


「その隙に脱出しよう」

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