第9話、救出計画


 さて、近衛隊に協力を申し出て、王子様救出作戦を実施することになった。


 俺たちは近衛隊と一緒にブルート村を出る。フィデルさんら村人たちが見送ってくれた。


「ジン様、本当にありがとうございました! ろくにお礼もできず、心苦しいのですが」


 焼き打ちされたばかりで、彼らには差し出すものがない。俺もそんな苦境の人たちを困らせるようなことはしないよ。


「このご恩は生涯忘れません。どうかご無事で」

「ありがとう。それじゃあ、お達者で」


 別れを告げて、東へ。魔力自動車はストレージに収納。近衛隊の足に合わせて、やや早足で移動する。


 すっかり夜になってしまった。


 俺たちは、反乱軍の野外陣地が見える位置までたどり着いた。多数の天幕があって、松明の明かりが多数あり、非常に目立った。


 兵たちの笑い声が響いてきた。晩飯の後に酒盛りでもやっているのかもしれない。


 うん、かなりの大兵力だな。林から陣地を眺めていると、ベルさんが言った。


「昔を思い出すな」

「大帝国の連中を驚かすために、よくこうやって忍び寄ったっけか」


 言うほど昔でもないが。

 戦争の真っ只中にいたのは2カ月も前だもんな。懐かしくもなるか。


「……ジン殿」


 ブルト隊長がそばにやってきて、小声になる。


「見ての通りだ。連中は討伐軍との戦いに勝って祝杯を上げているようだ。数百、いや千はいるかもしれん」

「でしょうね」

「ここから殿下をお救いするのだが、何か妙案はあるか?」


 正面突撃では十五名程度の近衛騎士など全滅するのは確定だ。志は高くとも、王子様を救えなければ犬死にである。


「囮攻撃を仕掛け、騒ぎを起こしている間にあの陣地に潜入、王子様をお助けする」


 口に出せば簡単だ。が、それが実行できるかは別問題である。


 囮――とブルトが呟けば、副隊長のオリビアが苦虫を噛み潰したような顔になる。


「囮だと? とても時間が稼げるとは思えないが……」

「まあまあ。……俺たちに任せてもらえませんか? うまくやりますよ」


 俺がブルトに話を振れば、彼は眉を潜めつつ頷いた。


「わかった。こちらも良案があるわけではない。……何か我々にできることは?」

「退路を確保しておいてくれると、助かります」

「了解した」


 何かを堪えるような顔のまま、ブルトは頷いた。いざ助けると息巻いていたが、実際は何もできないことを恨めしく思っているのかもしれない。


「ディーシー、スフェラを呼べ」

「ん」


 黒髪の美少女が、漆黒の魔女を呼んだ。いきなり現れた魔女に、近衛騎士たちは目をむいた。


「お呼びにございますか、マスター」

「1個小隊でいい。兵隊をよこせ」


 俺は異空間収納から武器を出しながら命じる。するとスフェラの周りに、黒い塊が複数出現し、それは人型に変わった。


「ジン殿、これは……?」


 言葉を失うブルトに、俺は答えた。


「シェイプシフター、うちの兵隊ですよ」


 黒い人型は、同じく黒い兜と軽鎧とまとった兵士の姿になる。バイザー部分を下ろしているので、素顔はわからない。


 俺が用意した武器をシェイプシフター兵たちはとっていく。クロスボウのような、しかしそれと違う形の武器に、クリントは怪訝な顔になった。


「ジン様、これは何ですか?」

「魔法銃だよ。魔法使いが杖を持っているだろう? あれにクロスボウみたいに狙えるようにトリガーやストックやを取り付けたものだ」


 魔力を伝える回路を組み込む必要はあるが、それを除けば非常にシンプルな代物である。引き金を引けば、先端から電撃弾の魔法を発射する。


「クロスボウのように初心者でも狙いがつけやすいし、呪文を唱えなくてもライトニングの魔法が使える。連射もできる優れ物だ」

「なんと! それは凄い」


 魔法は呪文で発動すると思い込んでいる者にとっては、詠唱しなくても使える魔法の武器のように見えるだろうな。


 シェイプシフター兵たちが慣れたように魔法銃ライトニングバレットを受け取り、準備完了。


 俺たち傭兵グループは一気に三十人の兵を得た。俺はベルさん、ディーシー、スフェラを集めた。


「ディーシー、ここからテリトリーを伸ばして、反乱軍陣地を捜索。捕虜の位置を探ってくれ」

「やってみよう」


 その間に、俺は適当な木の枝で地面に簡単は図を描く。


「陣地には俺が潜入する。皆には外から陽動を頼む。北西部で派手に暴れて、反乱軍の気を引いてくれ」

「任された」


 ベルさんとスフェラ、シェイプシフター兵リーダーが頷いた。


「陣地の外でなら何をやってもいいが、どの天幕に王子様がいるかわからない以上、天幕への攻撃は控えてくれ」

「面倒だよな。まとめて吹き飛ばせれば簡単なのによ」


 ベルさんが鼻で笑う。それには同感だ。俺の極大魔法でなぎ払ってやってもいいんだがね。


「ディーシー、掴めたか?」

「まだテリトリーを広げている最中だ」


 そう急くな、とディーシーは不満げな表情を見せる。


「それでなくても反乱軍とやらの陣地は広い。そこから目当ての人間を見つけるなど、簡単ではない」

「すまない。俺も直接乗り込んで探すよ。見つけたら念話で知らせてくれ。俺も見つけたら知らせる。……スフェラ、潜入チームを1個分隊よこせ。俺が直接、陣地へ運ぶ」

「承知しました、マスター」


 スフェラが、再び黒い塊をいくつか出した。今度はスライム状からブロック状に形を変える。アタッシュケースほどの大きさになったシェイプシフターを異空間収納に入れておく。


「じゃあ、ジン。オレたちは行くぜ」


 ベルさんが、シェイプシフター兵を率いて移動を開始した。俺は、ディーシーとスフェラに言った。


「俺も行ってくる。バックアップは任せる」

「ああ、行ってこい」

「お気をつけて、マスター」


 俺は立ち上がると、ブルト隊長を見た。


「じゃ、ちょっと行ってきます」


 そこから反乱軍の陣地を見やり、その敷地内の天幕の裏手を凝視。


「転移」


 その瞬間、俺の体は反乱軍陣地内、先ほど見つめていた場所に瞬間移動した。

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