第8話、面倒事に積極的にかかわっていくスタイル
「隊長! お目覚めになられたのですか!?」
女近衛騎士たちは、ブルト隊長の姿を認めて走ってきた。
「うむ、通りかかった傭兵の魔術師殿のおかげで、すっかり傷も癒えた」
「傭兵の魔術師……」
ちら、と女近衛騎士が俺たちを見た。暗黒騎士と俺と、黒髪美少女の組み合わせ――胡散臭く見えているのか、彼女の視線は厳しい。
「そんなことよりオリビア。偵察の報告を聞こう」
「はっ、隊長。それが――」
オリビアと呼ばれた女近衛騎士はうなだれた。
「どうも、アーリィー様は反乱軍に囚われてしまったご様子」
「なんだと!?」
ブルトが声を荒げた。周りの騎士たちも動揺する。
「確かなのか?」
「お姿は確認しておりませんが……護衛についていた者の死体が連中の拠点に吊されており、また捕虜をとったところ、殿下を捕らえたと証言が……」
「何てことだ……!」
ブルトは体を震わせている。
こっちにはきたばかりでよく知らないが、この王国の王子様が反乱軍に捕まったというのは結構な大事だよな。討伐軍が反乱軍に負けたっていうのもアレだけど。
「お助けせねばならぬ」
「もちろんです、隊長!」
オリビアも気力は萎えていない。しかし彼女と偵察に出ていた近衛騎士たちは青ざめている。
「あの、隊長。敵の陣地には数百もの兵がおります。救出は至難の業かと」
「馬鹿者! それでもお助けするのが私たち近衛隊だろう!」
オリビア副隊長が叱責した。ブルトも頷いたのだが、クリントら周りの近衛騎士たちは、不安をにじませている。
確かに、聞いた限りでは無茶なんだよな。
「ジン、どうなってるんだ?」
肉の塊を村人たちと運び終えたベルさんが戻ってきた。俺は近衛騎士らを顎で指し示す。
「王子様が反乱軍に捕まったってさ」
「ほおん、大変だな」
「ああ、まさしく」
流れ者である俺たちには、いまいちピンとこない話である。そのアーリィーだっけ、王子様を見たことがないから余計に。
ディーシーが俺の肩にもたれてきた。
「王子様とやらを助ければ、報酬がたくさんもらえるのではないか?」
「……」
「……」
俺とベルさんは顔を見合わせた。
そりゃ、一国の王族だ。助ければ、たんまりお金をもらえるだろうね……。救出するのは自殺行為にも等しい状況っぽいというのを無視すればね!
「名案だ」
「ここらで名を上げるチャンスでもある」
俺は冗談のつもりだったが、ベルさんは大変乗り気なようだった。マジかよ。
「王族に恩を売っておけば、何かと便利だろ?」
「珍しいな。ベルさんってあんまそういうの興味なさそうだったのに」
「この国でしばらく過ごすんだろ?」
しばらくどころか、いい場所なら定住も視野に入れていたり。
「ここ最近寄った国で、オレらよそ者への態度が一番マシだったからな」
「なるほど」
異国人への態度ね。住もうっていうなら、大事だよねぇそこ。
「それに、オレらだったらどんな面倒な状況でも解決できるだろ?」
自身たっぷりにベルさんは言った。
英雄魔術師と最強の仲間たち。……ああ、確かにな。
「それじゃ、やるか」
ベルさんは頷き、ディーシーは微笑んだ。恐れを知らぬ者どもよ。頼もしいったらありゃしない。
俺たちは、深刻な顔で話し込んでいる近衛隊のそばに行った。オリビア副隊長と話していたブルト隊長は気づいた。
「ジン殿、何か?」
「お困りのようなので、お手伝いしましょうか?」
「手伝うとは?」
「王子様を助けないといけないと聞こえましたが、どうも大変そうですね」
「うむ、どこまで聞いていたかは知らぬが、我々の戦力では厳しい。だがやらねばならぬ!」
ブルトは宣言するように言った。部下たちへの示しのようにも思える。
「俺たちは傭兵です。王子様の救出に手を貸しますよ」
「本当か!?」
ブルトは驚いた。周りの騎士たちも同様だが、オリビア副隊長だけは怪訝さを隠そうともしなかった。
「傭兵風情が何を言っているのだ? 敵は数百を超える。そんな場所へ向かおうというのに来るなど正気か?」
「人数はひとりでも多いほうがいいでしょ?」
「しかし、見ず知らずの傭兵を信じろと? いざとなれば逃げ出す奴らを、危険とわかっている状況で信用できるとでも?」
「そりゃ危なくなれば逃げるだろ、何を言っているんだ?」
ベルさん、正論ぶらないで。気持ちはわかるけどさ。
「じゃあ、一緒に行動しなければいい。それでどうです?」
「どういうことだ、ジン殿?」
ブルトは首をかしげた。俺は営業スマイル。
「つまりですね。俺たちだけで王子様を助け出すって、ことですよ」
「なに!?」
「ええっー!?」
近衛騎士たちの度肝を抜いてやった。オリビアが首を横に振る。
「バカな! お前たちを信用できないと言っているんだ。さては反乱軍の間者だな! 我々のことを通報するつもりだろう!?」
「馬鹿はお前のほうだろ」
ベルさんがオリビアを睨んだ。
「反乱軍の間者ぁ? そんな奴が、そこの隊長や騎士どもを助けるかよ」
「その通りだ。敵ならば瀕死のわしを助ける必要などなかった」
ブルトは目を伏せた。
「部下が失礼なことを言った。謝罪する」
「いえ、お気になさらずに。傭兵に対する世間の見方は知ってますんで」
「かたじけない」
近衛隊長は頭を下げた。
「して、殿下をお救いすると申したが……何故?」
「まあ、何故って俺たちは傭兵ですから」
報酬目当てですよ、と言ったら、またオリビア副隊長に睨まれそうだが……まあ、言わなくてもお察しできるでしょ、大人なんだから。
「困難な仕事をやり遂げたら、その分見返りはあると思うのが普通でしょ?」
俺は笑みを浮かべてみせた。自身たっぷりに見えるように。
「まあ、任せてくださいよ。何なら俺たちを囮にしてくれてもいいんですから」
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