第7話、村人たちへの救助


「クリント、アーリィー殿下のその後は何か掴めたか?」

「オリビア副隊長が分隊を率いて確認に出ていますが……まだ戻ってないので」


 スキンヘッドの近衛騎士が報告すれば、年配の近衛隊長は「そうか」と目を伏せた。


 えーと、この人たちは王子の近衛隊で、アーリィーという王子を守るのが仕事だな。

 反乱軍との戦いに討伐軍が敗れて退却の際、その王子を逃がすために囮になったらしい。


 逃がした王子がどうなったか、副隊長とやらを送って確認しにいった、というところか。


 俺はベルさんと顔を見合わせるが、ふとこちらへ来る初老の村人に気づいた。ひょっとして村長代理のフィデルさんかな?


「近衛隊長様が治られたと聞こえたのですが」


 洞窟である。どうやら声が聞こえたらしい。俺は頷いた。


「ええ、魔法で回復しました。……村人にも怪我人がいるようですが、良ければ手当しましょうか?」

「ありがとうございます……! 助かります」

「重傷の人はいないと聞いていますが」

「はい。ただし、満足に手当もできませんから、発熱や体調不良も重なって悪化すると思われます」


 だろうな。ということで、俺は初老の村人――フィデルさんと村人たちのもとに戻り、診断の上、治癒魔法をかけた。


「ありがとうございます! 楽になりました」

「神官様、ありがとうございます……」

「いえいえ、俺は魔術師で、神官ではありませんよ」


 具合が悪そうだった村人たちが、次々に治療を受けて元気になる。……あー、お婆さん、拝まないで。そんな偉い人じゃないから。


「助かります。……いやしかし、治ったら急にお腹がすいてきました」

「治癒魔法をかけたせいだろうね。体の再生を促す魔法だから、運動した後みたいに腹が減るんだよ」


 一般的なヒールの魔法は、そういうものだ。特に発熱組は要水分補給である。


 フィデルさんが顔をしかめた。


「食べるものを調達しないといけない。反乱軍は村のもんを全部持っていってしまった」

「動けるもんで、森に食料を探しにいかないと――」


 村人たちが話し始める。焼き打ちにあったばかりの村らしいから、蓄えも何もないようだ。


「あー、いいですか?」

「何でしょう、ジン様」

「表に倒したラプトルの死体が複数あります。アレ、こっちでもらえるなら、それと引き換えに食料を提供できますが、如何です?」

「ラプトル!?」


 村人たちは驚いた。フィデルさんも目を回していたが、頷いた。


「ええ、もちろん。我々では手に負えなませんからな。しかしいいんですか、食料をいただけるとは」

「いや、本当はラプトルを解体してその肉を皆さんで、と思ったんですが、ちょっと処理しないまま放置してたんで、さすがに美味しくないな、と。なので、こっちで保存してある肉を出します」

「そんな! 我々のために――!?」


 村人たちがどよめいた。フィデルさんも首を振った。


「それなら、味が落ちてもラプトル肉を解体してこちらで処理しましたものを……」

「そうです、ジン様。そこまで気を遣われなくても――」


 ……何か、この人らやたらと偉い人を見るような目で俺を見てくるな。


 そこへベルさんがズイっ、と近づいてきた。


「お前ら、ジンの言うとおりにしておけ」

「!?」


 暗黒騎士姿で素顔の見えないベルさんに凄まれて村人たちは黙った。……ベルさん、あんたその格好怖いんだから脅すなっての。


「外のラプトルだが、たぶんオレらの仲間が処理しちまったと思うから、食い物にありつきたいならジンに従っておいたほうが利口だ」


 外の仲間――あー、ディーシーか。俺はベルさんを見た。


「もう処理しちゃったかな、あいつ?」

「そりゃ、あのまま腐らせるくらいなら食っちまうだろ。あいつはあれでオレに似て大食いだからな」


 ふむ、確かに。


 俺が頷いていると、フィデルさんと村人たちは顔を見合わせ、頷き合った。


「わかりました。ジン様の言うとおりに致します」


 ……だから、何故やたらと俺に頭を下げるんだ、この人ら。


 まあ、いいや。連合国で魔術師やってた頃もこんな感じだったし。


 そんなわけで洞窟の外に出て、村の中央に行けば魔力自動車にもたれてディーシーさんが、夕暮れに染まる空を眺めていた。


「終わったのか、主よ」

「……ラプトルの死体が見当たらないな」

「ああ、あのまま腐らせるのはもったいから、我が魔力に解体した。悪くない味だった」


 フフ、と妖艶な笑みを浮かべるディーシーである。


 な? とベルさんが俺に頷いた。


「全部で何体あった?」

「10頭。この辺りは魔力が綺麗なのだろうな。美味だったぞ」


 美少女の姿をしたそれは笑った。


「それはそうと主。村に三人、近づいてくるぞ」


 この村の外も含めてテリトリー化をしていただろうディーシーはそう告げた。それにより索敵範囲もかなり広くなる。


「例の副隊長かな?」


 ブルトとクリントの会話を思い出した。振り返れば、ちょうどブルト隊長以下、近衛騎士たちがやってきた。


 あー、そうそう、フィデルさんたち村人が俺たちのそばで目を丸くしている。食料を提供するって話だったので、異空間収納ことストレージから、ポンポンと保存肉を出していく。


 おおっ、と村人たちからあがる声。


「何もないところから肉が!?」

「さすが魔術師様だ!」

「ありゃアイテムボックスとか、マジックアイテムじゃないのか?」

「どっちにしろ、見たことねえよ」

「すごーい!」


 子供にも大好評。俺はベルさんに促す。


「ちょっと手伝ってあげてよ、ベルさん」

「しょうがねえな」


 ひょいと肉の塊――豚丸々一頭分あるような巨塊を持ち上げた暗黒騎士は、フィデルさんを見た。


「どこに運べばいいんだ?」

「あ、はい、じゃあ、こちらにお願いします」


 村人たちは、まだベルさんの姿に緊張しているようだ。しかし子供は、何故かキラキラした目で暗黒騎士を見ている。


 ゴーレムか何かに見えているのかもしれないな。無知というのは怖いものだ。


 とかやっている間に、村に赤毛の女近衛騎士とその部下が現れた。オリビア副隊長とか聞いていたから間違いなさそうだ。

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