第5話、戦闘介入


 しばらく道なりに進んでいると、森が見えてきた。ああいうところを通ると、盗賊とか魔獣が出てくるんだ……。


 隠れられる場所ってのは、この世界での旅を難しくしている。


 俺はハンドルをにぎりながら、バックミラーを一瞥する。


「ディーシー」

「警戒しろというのだろう? しているよ」


 黒髪の美少女は億劫そうに返した。後ろの座席をひとりで占有しているのをいいことに、すっかりくつろいでいらっしゃる。


「ベルさん」

「ああ、目を見開いて見張ってやるよ」


 黒猫姿の相棒はダッシュボードの上に飛び乗って目を大きくした。口調はおふざけだが、彼も旅の危険を理解はしている。


 ……もっとも、そこらの雑魚などまったく相手にならないが。


「――主、この先に集落があるようだ。生き物の反応がある」


 森の道はまっすぐではないから、視界には集落とやらはまだ見えない。だがディーシーの索敵は正確だ。


「オーケー、人がいるなら偽装モードに」


 俺はコンソールのボタンを押す。すると車の前方に二頭の馬が出現した。


 いわゆる馬車モード!


 車単体だと見たことがないから騒がれるが、馬車ならばちょっと変わっていてもそこまで騒がれないという知恵。


 ただし、速度は落とさないといけないけどね。速すぎるとそれはそれで目立ってしまうのだ。


「おっ、見えてきたな」


 緩やかなカーブの先に、建物のようなものが見えてきて……。


「おんやぁ……」


 ベルさんが怪訝な声を出した。


「村だろうが、これはまた……」

「……」


 建物だったと思しき跡。焼けたのだろうか、大半が崩れ落ち、土台部分だけがいくつか見える。焼き打ちにあったように見える。


「穏やかじゃないな」

「主、集落に動きがある」


 ディーシーがシートに手をかけ、前方を覗き込む。その目は魔力を帯びて光っている。


「どうやら戦闘中のようだ。人間と……ラプトルの集団が交戦中」

「そいつは大変!」


 俺はアクセスペダルを踏んだ。ペダルに仕込まれた魔石が魔力を発生。魔力伝達線を通った魔力は信号となり魔石エンジンに伝わる。そこからさらに車輪に伸びた伝達線に従い、タイヤが回って車は前進する。


「助けるのか、ジン?」

「当然! こんな田舎っぽい場所だ。ろくな防衛戦力はないだろ」


 二足歩行型の小型肉食獣のラプトルは恐竜型の魔獣だ。小型と言っても大きさは成人男性を余裕で上回る。なかなかすばしっこく、強力な爪と歯で獲物を切り裂く。


「ま、村人じゃ、ラプトル相手じゃ食われちまうだろうな」


 ベルさんが黒猫姿から人型に変身した。双剣の戦士――ではなく、全身黒い重甲冑を身につけた暗黒騎士スタイルに。


 連合国で戦っていた頃とは別のスタイルにしたいというベルさんの戦闘形態だ。兜で顔を隠し、どこぞの暗黒卿じみた威圧感が半端ない。


「少々退屈していたところだ。やっつけちまおう」

「同感。このまま村に突っ込む!」


 俺たちは魔力自動車で突入した。


 炭化した木材や散乱する壺の欠片、血の跡などなど。半分、廃墟と化している村の中央では、肉食獣ラプトルと騎士たちが戦っていた。


「……騎士?」

「田舎だと思っていたが、騎士団がいたのか?」


 ベルさんも小首をかしげた。


 青いサーコートをつけた装備の整った騎士たちが、村を襲う魔獣と戦っている。王国の騎士だろうか。上等な装備をしているが、やはり場違い感があった。


 一瞬、嫌な予感がしたが、村に突っ込んでしまった以上、もう遅い。


「ディーシー、車をよろしく! ベルさん、行くぞ!」

「おうよ!」


 俺はブレーキを踏んで、村の中央で車を急停車させた。ドアを開け、素早く外に。俺は村の右側、ベルさんは左側と自然に分担。


 ラプトルが、乱入した俺たちに反応した。


「そうそう、こっちへ来てくれたほうがやりやすい!」


 こちとら伊達に2年近く魔術師をやってたわけじゃないんだ。腕に魔力を溜めて、いま必殺の――


「ライトニング!」


 放たれた電撃弾は、ラプトルの頭を吹っ飛ばした。まずは1頭ダウン!


 キシャー!――ラプトルがこっちへ駆けてくる。俺に齧りつき、引き裂くつもりなんだろう?


 先頭の奴がジャンプした。そうそう、この跳躍力もラプトルの武器だ。初見じゃ見とれててしまうだろうが――


「疾風――!」


 斬! 切り上げるように腕を振れば、風の斬撃が跳んできたラプトルの体を真っ二つに切り裂いた。


「危ない!」


 騎士の声だろう。上に注意がいったところを地上から別のラプトルが攻める――こいつら割とチームワークいいのよね、魔獣のくせにさ。


 突き抜けろ――


「アイススパイク!」


 地面から氷の柱が立て続けに生えた。それは急接近していた2頭のラプトルを、あっさりと串刺しにした。


「す、凄い……!」

「ラプトルをああも簡単に」


 魔獣と戦っていた騎士たちの声が俺の耳に届いた。敵が俺の方へきたから、見ている余裕ができたのだろう。


「手練れの魔術師だ……。近衛にもあんな腕前の者はおらん」


 何かそういう評価もらうのは久しぶりで、こそばゆいぜ。……というか残りの敵はどこだ?


 バシュっ、と最後のラプトルが分断された。暗黒騎士ベルさんが、手にした大剣で魔獣を一刀両断にしたのだ。一番太い胴体を両断とか、その力、化け物級!


「終わったようだな、ベルさん」

「ちょっとした運動にはなったな」


 ベルさんは大剣を収めて、俺のもとへ戻ってきた。同時に村を守っていた騎士たちも中央へ集まってきた。


「何者かは知らぬが加勢に感謝する!」


 スキンヘッドの騎士が声をかけてきた。


「不躾ながら、貴殿らは何者か?」

「旅の傭兵だ」


 俺が答えると、後ろにきたベルさんが威圧するように言った。


「騎士なら、まず名乗れ」

「失礼。王国近衛隊所属、クリント。ここにいるのは、同じ近衛隊の近衛騎士だ」

「近衛隊……」


 なるほど、要人警護などを担当する王族の直轄部隊だな。エリート中のエリート。そりゃ装備が豪華なはずだ。


 しかし、余計にミスマッチだな。なんで、こんな村に近衛隊がいるんだ?

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