第8話【第7鬼・笑いの館】
ボクシングのデビュー戦から数日、試合で負ける絶望を知った鳴海は落ち込んでいた。
鳴海 「このまま辞めるか。いや、今の俺にとってボクシングは一番の生き甲斐なんだ。それに負けたままで辞められるか」
そんな鬱憤を晴らそうとスナック『念』に来たが、看板が変わっていた。
「あれ、店が変わってるじゃねぇか」
店名は『笑いの館』になっていた。
中に入ると、店の雰囲気も変わっていた。前は薄暗くて不気味さを演出していたが、今は一変して明るく清潔感を強調していた。壁の色も黄色で統一してある。
あの、「念」が乗り移っていると思われたカウンターの場所も変わっていた。
変わらないのはママだけだった。服装も同じ白系のワンピースだが、店内の雰囲気が違うからか、くすんだ白から華やかな白に見える。
訊けば除霊の意味で、神社から神主を呼んでお払いをしてもらったという。
笑いは、景気の験担ぎにもなるらしい。
それに他人を恨んでストレスを解消するというのは、人としてどうかとも思うし、確かに笑うということは体にも精神衛生上にも良いに違いない。
それにしてもママや客達は、止め処なくよく笑っている。飲めば飲むほど笑い声は大きくなるし、それは爆笑というより、もう甲高い奇声に近かった。脳味噌にも響くような黄色い声だったが、不思議と不快感はなかった。やはり笑うという行為に、本能的に楽しさを覚えてしまうのだろう。
しかしその笑顔も、しだいに変わっているのに気づいた。口元だけでなく、目尻もつり上がっている。何かにとりつかれだしたようだ。
さて、どうしたものか……。
一人だけ浮いていた鳴海は辺りを見回すと、神棚があるのに気がついた。
お稲荷さんが祭られてあるという。
そういえば皆、狐の顔に似ていた。
完。
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