三話目

 一週間後。私と彼女は、ストリップ劇場にいた。


 

 …なんで?



 演劇の内容はここで伝えるにも及ぶまい。というかあまり内容が頭に入ってこなかった。

 女優は確かにきれいだった。最初は脱いでひたすら舞台上を飛び回るのかと思っていたが、実際にはゆったりとした動きだった。


 そもそも舞台がめちゃくちゃ狭かった。おれの部屋くらい。


 学校の教壇くらいという例えを思いついたが、言い得て妙だと思った。動く必要が無いのだ、見せる者と観る者にある種の同意があれば。



「えーと、…女優…になりたい?んですか?」

「敬語じゃなくていいよ。おっさん」


 てめえは年下の割に始めから敬語じゃねえな。


「気になるんだよ、普通に。何で今日誘われたのか」

「助けてもらったお礼のサプライズってことじゃダメ?」

 

 そう言って小首を傾げると、彼女の茶髪がふわりと揺れた。


 いや…髪の色にグラデーションがないのを見ると、赤毛…?まさか。日本人じゃ確率は1%にも満たないだろうに。トレセン学園とかから来たのかな?

 顔は長い前髪で大方隠れてしまっている。天使の輪がくっきり繋がっているように見えるほどの美しい直毛だから外を歩けるようなもんだろう。

 目は…ほとんど見えない。痩せて落ち窪んでいるのか、穴が開いてるように見えるほど黒かった。え、本当に開いてる? えっ? お? え?


 今、私と彼女は演目を観終わった後の道すがらであったが、その景色は、ストリップ劇場というものがあるかと思うくらいの普通の都会だった。

 一応、ストリップの前は古い映画館で映画など観た。


「ストリップ劇場のチケットを贈り合う仲か。おじさんそんな節操の無い仲嫌なんだけど」

 彼女は少しだけ口角を引き上げる。美人なのかも知れないが、そこには不気味な笑顔があった。

「うわ、ストレートに言うね。楽しくなかった?」

「そんなストレートか?そっちはどうだった」

「うん。何か…エロかった」


 中学生並みである。

 こちらの反応を探っているのでは無いかなどという可能性はチケットを渡されてから時計の短針の回転数と同じ18回分考えた。もう考えたくない。


「もう考えたくない…」

「何を」

「いや、俺の反応を探られてるかも知れないなっていう…」

「考えすぎだよそれは。おっさん」


 こういう時は素直に聞くのが一番だと思ったんだ。一蹴されたけど。

 私は彼女に疑いの眼差しを向けていたかも知れない。覚えているのは、彼女の耳についた、雫のような形をしたイヤリングがこちらを見ていたことだけだ。

彼女は少しも私に顔を向けず、


「アタシが楽しそうだと思ったからおっさんにも見せただけだよ」

「…」


 この沈黙が私と彼女の関係性を物語る、最も明快な要素である。



 

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