二話目
ボロボロの雑居ビルに転がり込んだ。
私は砂の掃かれていないザラザラの床に自分のと、もう一人の体を思い切り投げ出して、思い切り扉を閉めた。
「はぁ…くそっ…変なところが痛い…」
これは私の完全なる独り言である。
恐らく打ち身の類ではない。人ひとりを半ば抱えるようにして走ってきたからか、左腕全体に鈍痛があった。
さっきの出来事は糞寒い夜風と共に確かに脳裏に刻まれている。
ーー橋の下。口論になっている若者が3人、身長は私のと比較して170cm位のが2人程、もう1人は165cm程度か。最後に測ってから自分の身長が縮んでしまっているかも知れないので正確にはわからない。
蓄光の腕時計の弱弱しい光をどうにかこうにか確認して19時45分。
例の場所を出て月が出ている方向に2番目くらいの橋だったから番地は恐らくここのに7をつけたくらいのものだろう。……いや、こんなことを考えてどうする?
問題は、あの橋の下で聴いた口論の内容だった。
背丈の小さい彼女は、出費を渋っているかのような言動をしていた。それに対し、大きな2人が激昂した。
彼女は…待て、今なぜ「彼女」と?
「……おっさん?」
暗闇に、眼が冴えるほどの白い肌。その内の、再び闇に沈む大きな黒い眼。
それほど見慣れていない彼女のその特徴的な顔に、私は一瞬叫び声を上げそうになった。
私はその時やっと、彼女のことを思い出したのだった。
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