第22話 魔術
翌日、ジークに叩き起こされたルドは目を擦りながら庭に出てきていた。
「いい機会だ。お前も魔術を学んでいけ」
エリナに魔法を教えるという話だったのだが、ルドにも
「なんで俺まで……」
魔法を
要らぬお節介だと断ろうとしたが、「魔法と魔術の違いすら理解していない人間が断ってどうする」と言われ連れてこられた。
「魔術、魔術って。……魔術ってなんなんだよ」
魔法と何が違うのか。
「お前たちの無知さが分かるいい質問だ」
「お兄ちゃん」
ルドの疑問に嫌味ったらしくジークは反応するが、それをエルシアが
「いいか? まずお前たちは魔術の根本から理解しろ」
ジークの言葉を聞き、横に並ぶエリナと一緒に頷いて答える。
「魔法ってのは魔族がマナを使って行使する超常の現象のことだ。そしてお前たちが魔法と呼んでいるものは魔族の魔法を模倣し、人間でも扱えるように落とし込んだもののことを言う」
そこまで説明したジークは一度区切り、ルドたちが呑み込めているか確認してから再び話し始める。
「つまり簡単に言うと、魔法とは無詠唱で行使されるもののことであり、詠唱が必要なもののことを魔術と言う」
ジークの言うことは理解できる。理解できるのだが、
「それはおかしいだろ。今まで俺が読んできた本には魔術なんて書かれていなかった」
伊達に十二年、魔法についての本を読み漁ってきていない。
どういうことかは分からないが、解説するジークに反論する。
「あぁ? どうせお前が読んできたのは大衆向けの書物だろ。書斎に行かなかったのか?」
大衆向けの書物と言われたことでショックを受けるが、ジークの最後の一言で昨日の出来事を思い出し、一人で気まずくなる。
「あー。昨日は少し、体調が優れなかったんだ……」
「そうか、なら今日行ってみるといい。……話が逸れたな」
そう言うとジークは話を戻して続ける。
「まだ納得できないか。なら人間が行使できるものが魔法という呼称だとしよう。だったら何故、この国最強の一人は大魔術師なんて呼ばれているんだ?」
ジークの言葉に衝撃が走る。
ずっとそういうものだと思い疑問はなかったが、言われて初めて気が付いた。
ジークの納得のいく説明に反論の余地はない。
今まで魔法についての本を読み、積み重ねてきたものは何だったのだろうか。
家にあった本を読破しただけで詳しくなったと思い上がり、魔術のことすら知らず勝手に絶望してヒューゴに冷たく当たってしまった自分が情けない。
立ち尽くすルドの気持ちなど知らず、ジークは話を進めて行く。
「事前知識はこれぐらいでいいだろう。エリナ、暴発する所を見せてみろ」
ジークは話を切り上げ、エリナに魔術を使うよう促す。
「なんの魔ほ……魔術を使えば?」
一歩前に出たエリナが戸惑いながらジークに質問する。
「なんでも……なんでもは駄目だな。火属性の魔術以外で。森が燃える」
「分かりました」
そう言うと虚空へと手を上げ、暴発する覚悟を決めたエリナが叫ぶ。
「フルクシオ!」
その詠唱は勢いよく水を放出するものなのだが、放出される瞬間に水は爆発した。
爆ぜた水は辺りに降り注ぎ、地面を濡らしていく。
暴発の反動でエリナの身体は吹き飛ぶが、慣れてきたのか受け身を取って衝撃を和らげていた。
「なるほどな。本当に魔術というのを理解していないのな」
その様子を見ていたジークがそう呟き、手招きでエリナを呼んでから解説に入る。
「エリナ。お前は最初に長文詠唱を教わっただろ?」
「どうしてそのことを……」
ジークの一言にエリナは驚きの表情を見せる。
以前エリナが森を燃やすと言って、詠唱していたあれのことだろう。
「なに、驚くことはない。簡易詠唱と長文詠唱ではマナの流し方が違うんだよ」
少し悩む素振りを見せながらも、ジークは話を続ける。
「術式を構築してからマナを流すのが長文詠唱って、いきなり言っても難しいか。そうだな、分かりやすく例えると長文詠唱は水の通り道を作ってから水を流すんだが、簡易詠唱は勢いのある水を一気に流して水に通り道を作らせる。そんなイメージだ」
ジークはエリナの反応を見ながら、話しを進めていく。
「つまり、エリナがいつも暴発しているのは水で通り道を作ることをせず、簡易詠唱でも先に通り道を作ろうとするから途中で時間が足りなくなり水が流れてしまう。通り道を作るように操作されていない水は、途中までしか作られていない通り道の行き止まりにぶつかり溢れかえる。だから魔術が暴発するんだ」
エリナの暴発についての解説が終わり、ジークは付け加える。
「最初に教わった長文詠唱を愚直に何度も何度も繰り返した結果、無意識のうちに癖がついてしまった。そんなところだろう。魔術理論は後で教えてやるから取り敢えず今日は癖を直せ」
「魔術理論……魔法ってイメージなんじゃ」
聞きなれない単語に嫌な予感でもしたのかエリナが呟く。
やるべきことを終えたジークは屋敷へと帰ろうとしていたが、その呟きを聞き逃すことはなかった。
「魔術はイメージ、それは正しい。だが、それだけでは二流だな」
そう言うとジークは仰々しく振り返り、
「一流はイメージも理論も完璧なんだよ」
自信満々にそう宣言した。
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