第21話 提案
廊下の奥の広間に足を踏み入れるジークの姿を目撃し、ルドは開きかけていた扉を戻して息を呑む。
――バレたか?
緊張で心臓の鼓動がうるさく感じる。
雨音が屋敷を包み込む中、廊下を歩く足音が近づいてきた。
目的がこの部屋だという事を察し、ルドは急いで隠れる場所を探し始める。
足音は少しずつ大きくなり、やがて扉を
元々、物の少ないこの部屋には隠れる場所など存在せず、終わりを悟ったルドは覚悟を決める。
ドアノブが捻られ開く瞬間。
「お兄ちゃん、そこって、何があるの?」
エルシアの声が響き渡った。
「エル。前も言っただろ? ここはお兄ちゃんの研究室なんだ」
「見たい。どんな研究、してるの?」
「魔術の研究だよ。エルがもう少し大きくなったら見せてあげよう」
そう言ってジークの
「えー」
「それよりも、何か用事があったんじゃないのか?」
エルシアの興味を逸らすためか、ジークは話題を変える。
「そうだった。お姉ちゃんがね、魔法を、使おうとすると、暴発しちゃうんだって」
「それは面白いな」
興味を惹かれるジークにエルシアが真面目に話す。
「面白くないよ」
「ごめん、興味深いなって思っただけだから」
「もうっ」
エルシアに怒られ、ジークは弁解する。
「それで?」
「お兄ちゃんだったら、直して、あげられるかなって」
エルシアが要件を伝え終わり、少しの沈黙が流れる。
「お兄ちゃん?」
「分かった! エル以外の面倒を見るのは
エルシアに頼られて、余程嬉しいのかジークは明るく答える。
「やった」
「ただ、もうご飯の支度をしないといけないから。明日でもいい?」
「うん。私も、手伝う」
「よし、じゃあ今から作ろうか」
そう言うと、扉の前まで来ていたジークはエルシアと一緒に廊下を歩いて帰っていった。
一時はどうなるかと思ったがエルシアのおかげで助かった。
エルシアに感謝しながら扉を開けて、外を覗き見る。
廊下には誰の姿もない。
そのことに安堵し、ルドはその部屋を後にした。
その後、結局書斎には行けずルドは部屋まで戻ってきていた。
倒れる様にベッドに身体を預け、天井を見上げる。
既に先程までの倦怠感や頭痛は治まり、体調は回復していた。
あの部屋は何だったのか?
ジークとは何者なのか?
疑問は尽きない。
天井を見つめ、
「はい」
身体を起こし、扉へと視線を向ける。
「飯の時間だ、下りてこい」
扉を開けるなりそう言ってジークが入ってきた。
「あぁ。ありがとう」
あの部屋に入ったことで、ジークに対して後ろめたさが残るルドの返答は歯切れが悪い。
「どうした? 風邪でも引いたか?」
ルドの返答に少し思うところがあったのか、ジークは心配し始める。
「いや。そういう訳じゃない」
「そうか。何にせよ、飯が冷える。早くしろ」
急かすジークに従い、ルドはベッドから降りた。
そのままジークに連れられ、階段を下りて食堂へと案内される。
「凄いな」
食堂に足を踏み入れたルドの口から感嘆の声が漏れる。
驚くのも無理はなく、目の前のテーブルには既にパンやサラダ、スープに肉料理といった豪華なものが用意されていた。
そして、そのテーブルの横の椅子で既に来ていたエルシアとエリナが座って歓談している。
「遅かったですね」
食堂にやってきたルドに気付き、エリナが声を掛けてきた。
「あぁ。少し考え事してた」
ルドはそう答え、空いている席に腰を下ろす。
そうしてジークも椅子に座り、全員で食事を始めた。
食事中は特に喋る事はなく、黙々と料理を口の中に運ぶ。
――美味いな。
見た目通り料理は美味しく、食事の手が止まる事はなかった。
ほぼ全員の皿が空になり、食事が終わった頃。
ルドは話を切り出した。
「ご飯美味しかった、ありがとう。料理まで用意して貰って、なんだが。この森の抜け方を教えて欲しい」
この屋敷に辿り着いた原因とそろそろ向き合わなければならない。
世話になり続けるのも悪いと思い、ルドは早く出られるようにしようとジークに話す。
「その事なんだが……すまなかった」
そう言ってジークがいきなり頭を下げるが、ルドたちはどういうことか分からず、ルドたちは困惑する。
「結界の誤作動で森から出られないようになっていた」
「結界の誤作動?」
どういうことだろうか。
「最近何かと物騒だからな。魔族や魔物への対策として森で迷わせる結界を張り巡らせていたんだ」
自分たちが方向音痴なのかと思っていたが、結界が原因だったらしい。ジークの説明に納得していると、
「先日の魔族のせいですよね……」
エリナも気づいたらしく、呟いた。
先日の魔族と出会ったことを思い出す。
あの魔族に反応したことが原因であれば誤作動にも納得がいく。
「何処かの間者かと疑っていたがこちら側の失態だ。すまない」
そう言うと再びジークは頭を下げる。
「いやいや。泊めて貰えるだけでもありがたいです。それに豪華な食事まで用意して頂けて」
エリナの言うことも、もっともだ。
これだけの事をして貰って、文句を言う所が何処にあるのか。
「そうか。そう言って貰えると助かる。お詫びといっては何だが、エルにエリナの魔術を見てくれと頼まれた。これでも僕は魔術には一家言持っている身だ。どうだろう?」
ジークの提案にエリナは動揺を見せる。
「ありがたいですけど……」
エリナの視線がこちらに向く。その視線は恐らく、まだこの屋敷に滞在しても大丈夫かというものだろう。
エリナの意思を汲み取り、ルドが答える。
「いいんじゃないか? 急いでいる訳でもないし。それにエリナが魔法を使えるようになれば自衛の手段も増えるだろ」
これから先、どんな危険があるか分からない。
魔族と遭遇して力の差を思い知らされたルドはそう提言する。
「決まりだな。それじゃあ明日の朝、庭に来てくれ」
ジークが話を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます