幕間 標的は

 ルドが魔族を倒したのと同時刻。


 自由国家アルフィーロにて少女は空を見上げていた。


 魔界から逃げて早二年。ルイスは大丈夫だろうか。


 守護者を足止めするため一人、渓谷に残った彼のことを考える。


 ――二年、探し人は未だ見つからない。


 百年以上前、兄と共に人界を旅したことを思い出す。


 その時に人界で生きる術を、死にかけになりながら身に着けたことが今も役に立っている。


 魔界から追ってきた他の魔族は人界での生きる術を知らず、人を襲い、殺されていった。

 

 追っ手の数が減り楽になったとは言え、本当にいるのかも分からない相手を探すのは心が折れそうになる。それでも、


「早く見つけないと……」


 少女は自分をふるい立たせて、顔を上げる。


 すると全身を懐かしい気配が包み込んだ。


「この感じ、もしかして……」


 懐かしすぎるその気配に少女の頬を涙が伝う。

 

「行かなきゃ」


 もう挫けない。


 魔王の妹ティアは決意を新たに歩き出した。




 ルドたちが洞穴を去った数日後。


 誰もいない洞穴内に足音が響き渡る。


 黒い外套がいとうに身を包み、フードを深く被った黒髪の青年は迷うことなく奥へと足を進めていく。


 すると開けた場所に出て青年の足は止まる。


「これは……」


 一点を中心に墓標ぼひょうのように連なる無数の剣が目に入り、圧倒される。


 青年はすぐに思考を切り替え、追っていた魔族カインの姿を探す。


 が、カインの姿が見つかることはなかった。


 周りに死体がないことからカインの方が死に自壊したのだろう。


「一体誰が」


 目の前に広がる剣を突き立てたのか。


 青年は不可解な惨状に困惑しながらも対応し、頭を回転させる。


 少しでも手がかりを得ようと、地に刺さる剣へと足を進めていく。


「これは、カインではないな?」


 青年はカインにこんな力はなかったと思い返す。


「カインと鉢合わせ、もしくはカインを狙った誰か……」


 今までの経験則と事前に得た知識を活用して推測する。


 洞穴内の痕跡こんせきを見るに、激しい戦闘があったというのは容易に想像がつく。


そして残り続ける無数の剣、魔法なら消えているはず。


「この力。魔人か」


 青年は一通り洞穴内を調べ、もう得られる情報はないと判断して洞穴を出る。


 外へ出た青年に待っていた男が話しかけてきた。


「終わったか?」


「来るのが遅かった」


「そうか」


 青年の返答に男は苦い顔をした。


「ただ、魔人がいたかもしれない」


「どうする? テオ」


「一旦、帰ろう」


 青年の言葉に男は頷き、虚空こくうに穴を開ける。


「最悪の場合、その魔人が標的になるのか?」


 男が青年に静かに問いかける。


「そうだな。最悪、殺すことになる」


 死神と呼ばれる青年はそう答え、虚空へと消えていった。

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