第17話 別れ
夢を見ていた。
自分で自分を
死にゆく少女に少年は何かを誓う。
内容は忘れてしまったが、哀しいという気持ちだけは残っていた。。
縦穴から差し込む光が
「ッ……」
身体を起こし動こうとするが気怠く、全身に鈍い痛みが広がる。
寝起きで働かない頭を無理やり回転させ、昨日の出来事を思い出す。
「あの男とここで……」
ゆっくりと身体を起こし辺りを見回す。
すると少し離れた所にエリナが倒れているのを発見した。
男に首を絞められていた昨日の光景が脳裏を過る。
急いで立ち上がろうとすると身体が悲鳴を上げ、激痛が走る。
「がぁッ……」
あまりの痛みに声が漏れる。
痛まないよう、少しずつ近寄って倒れているエリナの元へと到達する。
目立った外傷は見えない。
横向きに倒れているエリナに手を伸ばし、息があるか確認しようとすると。
「みんなに……会いたい……」
エリナの寝言が聞こえ、ルドは安堵する。
生きていることが分かり安心したが、悲しげなその寝言はルドを心配にさせる。
以前、放浪の理由は家が無くなったからと言っていた。
あの場ではもう気にしていないと言っていたが、気にしないのは流石に無理があったのだろう。
うなされているエリナの肩を揺らし、目を覚まさせる。
「うっ……」
「大丈夫か?」
「……おはようございます」
エリナは身体を起こし、目が合ったルドと挨拶を交わす。
「あぁ。おはよう」
エリナは辺りを見回し状況を確認して呟く。
「生きてる……?」
「あぁ。生きてる」
その呟きに、ルドは嚙みしめるように答える。
「助けて貰ってばかりですね。私」
どこか
「それは違う。エリナがいてくれたから俺も助かったんだ」
エリナが男にブラフを使っていなければ、既に死んでいただろう。
それにあの男と対峙したとき、一緒に立ち向かってくれたエリナから勇気をもらえた。
そんなことは気恥ずかしくて言うことはできないが。
「そうですか」
心からの言葉に、少しだけエリナの雰囲気が明るくなった気がした。
そうして二人で生存を確認し合っていると、エリナがルドの後ろを指さして疑問を口にする。
「あれはルドが?」
エリナの指す方向へ目を向けると、一点に集中するように無数の剣が地に刺さっていた。
状況証拠的に自分以外いない訳だが。
「記憶が
エリナの質問に正直に答える。
あの無数の剣を何処から出したのか。
あの状況を打開したこの力は何なのか。
自分のことなのに分からない事が多すぎる。
「あれだけの量の剣、持ってなかったですよね?」
「あぁ」
エリナの質問に頷いて返す。
「あの量の剣を何処から……」
「俺にも分からん」
不思議そうに首を傾げるエリナにそう告げる。
出したはずの自分ですら分からないのだから、今はお手上げだろう。
今は考えても意味がないという結論に至り、二人はこの話を止める。
「バルバトスさんは……」
ここまで触れてこなかった話題にエリナが踏み込む。
二人の視線が、壁の崩落した場所へと移る。
「バルバトスはもう……」
生きてはいないだろう。そう言葉にするのを
分かっているのに心のどこかで、まだ生きているんじゃないかと思ってしまう。
心に区切りを付けるため、腰を上げ、崩落した場所へと踏み出す。
向う一歩はとても重い。
それでも一歩ずつ歩みを進めていく。
エリナと並び、バルバトスを巻き込んだ土砂へと到達する。
その場を見渡すが、バルバトスの姿は何処にもなく。
生存は絶望的。
捨てることのできなかった希望は消え、抑えていた感情が溢れ出る。
「まだ……何も返せてないのに……」
バルバトスと出会ってからの日数はまだ浅いが、出会った時からバルバトスには助けられてばかりだった。
「案内してくれるんじゃなかったのかよ……」
王都を案内してくれると言っていたバルバトスの姿が脳裏を過る。
自分の無力さに腹が立つ。
自分にもう少し力があれば。
あそこでバルバトスと並び立てるだけの力があれば……
悔やんでも悔やみきれないルドの横でエリナが何かを見つける。
「ルド、あれ」
エリナの指す方向へと目を向ける。
土砂から少し離れた所に白い剣が落ちており、一目でバルバトスのものだと理解した。
落ちている剣へと歩みより、拾い上げる。
更に崩落する可能性もある為バルバトスを掘り起こすことはできないが、この剣を遺族に返すことぐらいはできるはずだ。
自己満足かもしれないが、これぐらいのことはしてあげたい。そう心に決め剣を握りしめた。
そうしてルドたちはバルバトスに別れを告げ、洞穴を出た。
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