第二章 迷いの森の兄妹

第18話 迷いの森で

 洞穴を出て一日経ち、ルドたちは森の中を彷徨さまよっていた。


「この森おかしくないですか?」


 流石に変だと思ったのかエリナがそう零す。


 森がおかしいのか、自分たちが方向音痴なだけなのか。


 街道までの距離はそれほどないはずなのだが、ひたすらに歩いても一向に街道へ出る気配がない。


「天気も悪くなってきたな」


 朝は晴れていたはずなのだが、今にも降り出しそうなほど雲の色が悪い。


 森から出ることは諦めて雨宿り場所を探した方がよさそうだな。と考えていると視界の端に少女の姿が映る。


「今の……」


「どうかしたんですか?」


 ルドの呟きにエリナが反応する。


「女の子がいた」


 エリナにそう答えていると少女が森の奥へと走っていくのが見えた。


 あの少女なら街道までの道を知っているのではないか? それに迷子なら一人では危ないだろう。


 一瞬の逡巡しゅんじゅんを挟み、ルドは少女の後を追う。


「えっ?」


 急に走り出したルドに驚きエリナは気の抜けた声を漏らす。


 そんなエリナを気にしている余裕はなく、ルドは草木を掻き分けながら少女を追いかける。


「ちょっと待ってくれ! 道をッ、聞きたいだけなんだ!」


 ルドは声を上げるが少女に届いていないのか、もしくは怖がらせてしまったのか、少女の足が止まることはなかった。


 それでも見失うという事はなく、少女に導かれるように追いかけ続ける。


 そうして少女を追いかけ走っていると、唐突に森が終わりを迎え、大きな広場に出た。


 あまりの大きさに森を抜けたのかと思ったが、木々に囲まれているのを見てまだ森の中だと分かる。


 森の中にこれほどの大きな広場があることに驚いたが、何よりも驚いたのは中央で存在を主張している大きな屋敷だろう。


 屋敷は左右対称になっており、シンプルだが威厳があって圧倒される。


 ルドが屋敷を見て足を止めていると、少女は振り返ることなく小走りで屋敷へと駆けていく。


 少女が扉を開け中に入って見えなくなるのと同時にエリナが到着した。


「急に走らないでください!」


 置いて行かれたことにエリナが憤慨ふんがいする。


「ごめん。でも……」


 ルドに促されエリナは視線を屋敷へと向ける。


「すごい……」


 広場の中心で存在感を放つ大きな屋敷に感嘆の声を漏らす。


 あの少女が迷子ではないことが分かり安心したが、森から抜け出せていないことには変わりない。


 ここに住んでいるという事は、森から出る道も知っているはず。


「エリナ、行こう」


 一瞬の逡巡を経てルドは屋敷へと歩き始める。


「え? どうして」


 屋敷に向かうことに疑問を抱いたエリナが問いかける。


「俺たちでは森で迷い続けるだけだ。ならこの森に詳しい人に聞けば早いだろ」


 エリナの疑問に答え、ルドは続ける。


「それに雨が降りそうだしな」


「分かりました」


 ルドの返答にエリナは納得した様子を見せる。


「でも、追い返されません?」


「どういうことだ?」


 エリナの懸念にルドは疑問を抱く。


「いえ、ルドは女の子を追いかけてここまで来たんですよね?」


 エリナの言いたいことがよく分からない。


「そうだけど、何が問題なんだ?」


「それって、女の子から見れば不審者じゃないですか」


 エリナの言葉に足が止まる。


 何故、こんな簡単なことに気が付かなかったのか。


 相手からすれば娘を狙う男が屋敷に訪問してきたと思っても不思議ではない。


「玄関で刺殺とかされないかな?」


 誰も来ることがない森の中、死人の一人や二人魔族のせいにでもすれば、どうとでもなる。


 嫌な想像が頭の中を埋め尽くす。


 エリナは構わず屋敷へと進んでいくが、ルドの足取りは重い。


「どうしたんですか? 本当に殺されると思ってます?」


 ルドの不安を冗談だと思っていたのかエリナは投げかける。


「大丈夫ですよ、私がきちんと説明します。なので早く行きましょう。雨も降ってきましたし」


 ポツポツと額に当たる雨粒など気にするわけがなく、ルドはその場から離れない。


 そんなルドを見兼ねてエリナは小走りで近寄っていく。


「風邪引きますよ。早く、行きましょう」


 エリナに手を引っ張られ、少しずつ屋敷へと近づいていく。


「今日、死ぬのか……」


 森に一人で入ると遭難そうなんするのは目に見えているため、屋敷に入るという選択肢以外ないのだが。


 逃げることを諦め、エリナと一緒に玄関まで到着した。


「もし、殺されそうになったら一緒に逃げましょう」


 そう言ってエリナは扉をノックした。

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