第4話 提案という名の脅迫
昼が過ぎ、太陽が傾き始めた頃合い。
「まだ着かないんですか……」
横にいるエリナが本日、何度目かの愚痴を
昨日、エリナと出会ってから何とか街道に合流することができ、道に迷うという事はなかった。
だが、思っていたよりも街道は長く昨日から歩き続けている。正直、辺り一面草原で景色が変わらないのは精神的に辛いものがある。
「あれを越えれば村のはずだ」
前方に見えてきた森を見て指をさす。
「えっ」
嫌なものでも見たかのようにエリナは足を止める。
「嫌なんですけど」
「え? なんで?」
「魔獣に襲われます!」
エリナの体質のことを忘れていた。
だがこの森を切り開いた街道を通らなければ村には辿り着けない。どうしようかと、
「迂回しましょう」
ルドは前方に見える森を見渡す。
右を見ても、左を見ても森の終わりは見えない。
「そうか。じゃあここでお別れだな」
「見捨てる気ですか!?」
置いていくなと抗議してくるが、エリナを連れていくとリスクが高いのも事実。時間が惜しい訳ではないが終わりの見えない森を迂回するのもリスクが高い。
「やはり別れるべき……」
と結論を出そうとしたところでエリナがとんでもないことを言い出す。
「そうですか、分かりました。では森を燃やします」
そう言うと森の方へと歩き出した。
驚きのあまり、反応が遅れる。
――森を燃やす。本当に燃やすのか?
少し歩いた先で立ち止まり、詠唱を始めた。
「
長文詠唱。初めて聞くその詠唱に驚かされ動きを止めてしまう。
「我は導き手――」
大気が振動し始めたことでルドは我に返り、急いで止めに入る。
「おい」
「なんですか。邪魔しないでください」
止めるなと訴えてくるが、ルドは聞く耳を持たない。
「馬鹿か? 馬鹿なのか?」
「失礼ですね。自分の安全の為です」
悪びれもなく反論してくる。
「安全確保の為に森を燃やそうとするな」
「他にどうしろと?」
「魔法が使えるならそれで――」
「無理ですね」
言おうとしたことを察したのか食い気味に反論をしてくる。
「なんで?」
簡易詠唱が主流の中であえて長文詠唱を扱う。それは簡易詠唱に置き換えることができない強力な魔法が長文詠唱にあるからで。それを扱える者であれば魔獣など相手にならないだろう。
「暴発します」
「は? なんで?」
「分かりません。でも、何故か簡易詠唱の魔法は暴発するんです」
どういうことか分からず飲み込めないルドを見て、見ててくださいというとエリナが横に向き、誰もいない宙へと手のひらを向ける。
「――ダーロス!」
簡易詠唱を叫ぶと横に向けた手のひらから炎が爆発したように噴き出した。瞬間、エリナが視界から消えた。
あまりのことに驚きを隠せない。すぐにエリナの姿を探すと少し離れた場所で倒れていた。
急いで駆け寄るとこちらに気づいたエリナが身体を起こす。
「大丈夫か?」
「大丈夫ではないですが、大丈夫です」
「どっちだよ」
座っているエリナに手を貸し立ち上がらせる。
ありがとうございます。と言うと身体に付いた土を払い始めた。
ルドはさっきのエリナの魔法を思い出し考える。
ダーロスと叫んだ瞬間、爆発したように炎が噴き出した。いや、あれは本当に爆発したのだろう。ダーロスという魔法は炎を放出するだけの魔法で、普通はあんなことにはならないはず。
どういうことか分からず思考を巡らせていると、エリナは土を払い終える。
「ということです」
「ということですじゃない」
自信を持って言うエリナに呆れて答える。
「そういうルドは魔獣を倒せる?」
その問いかけに少しの間、思考を巡らせる。
魔獣に勝てるか? 街道という障害物のない場所で一体が相手なら、まず確実に勝てる。
次に複数体。魔獣自体数が少ないため複数体といえど三、四体が限度だろう。無傷で勝つのは難しいだろうが恐らく勝てる。という結論に至り答える。
「絶対ではないが倒せる」
「分かりました」
何が分かったのだろうかと疑問に思うルドに対しエリナは提案をする。
「私を護りながら森を抜けるか、私を残して森で焼け死ぬか選んでください」
「なんで森に火を放つ前提なんだよ」
「選んでください」
そうして提案という名の脅迫を突き付けられ、エリナを護りながら森を進むことが決まった。
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