第3話 立派な旅人?

「俺の名前はルド・ロヴネルだ」


 あれだけ話しておきながらまだ自己紹介すら終えていないことに驚きを覚える。


「私の名前はエリナです。よろしくお願いしますね。ルド・ロヴネルさん」


「ルドでいいよ。よろしくエリナ」


 驚きと困惑で気づかなかったが改めてみると、淡い紫色の長髪をなびかせた姿は何処かはかなげで、琥珀色こはくいろの瞳は吸い込まれそうになるほど美しく、白を基調とした派手すぎない服装は更に彼女の儚さを引き立たせている。言動や厚かましさに目をつむれば間違いなく可愛いと言える。


 そんな感情を抱いているとエリナはこちらの視線に気づき口を開く。


「なんですか?ジロジロ見ないでください。気持ちが悪いです」


 自分で付いてきておいてなんなのだろうか……


 気を取り直して歩みを再開させると、エリナが肩にぶら下げた刀を見て不思議そうに聞いてくる。


「その剣、あまり見ない種類ですね。何処の国の武器なんですか?」


 興味深々といった様子のエリナとは対照的にルドは困惑した表情を浮かべる。

 何処の国の武器かと言われてもな……


 少し悩んだが素直に伝える。


「物心つく前から持っていたから詳しくは知らないな」


 言われてみると気になってくる。記憶はないが恐らく親の形見か何かだろうし、調べてみれば何か分かるかもしれない。


「へぇ。小さいころからそんな大きな剣を持つなんて凄いですね。騎士の家系だったりするんですか?」


 その言葉にルドは、立派な親がいたのかもしれないという可能性に触れ思いをせる。


「この刀は形見だよ。多分」


 人探しの旅だったが、自分の過去を調べるのも悪くないのかもしれない。

 この旅で知ることができるといいなと、一人感傷に浸っていると。


「ルドさんも複雑なんですね」


 エリナはそう小さく返す。

 少し含みのある物言いに引っかかっていると少しの間、沈黙が流れる。


 するとエリナが沈黙を破り、ルドに聞いてくる。


「ルドさんって旅人ですよね?」


「どうしてそう思うんだ?」


 旅をしていると言った覚えはないと思うが。


「私と同じ軽装に村から遠く離れた場所で一人きりとなれば、旅人ぐらいしか当てはまりませんから。まぁ、私の場合、放浪者ですが」


「せめて旅人であって欲しかった」


「今はルドさんと一緒なので立派な旅人です」


 と少し誇らしげなエリナにルドは苦笑する。


「なぁ。エリナ」


 先ほどからむずがゆく感じていたものを直そうと話を切り出す。


「なんですか?」


「ルドさんっていうのやめないか?見た感じ年もそう変わらないし、俺のことはルドでいいよ」


「そうですか。じゃあルドで」


 特に困惑した様子もなくエリナは切り替える。


「話を戻しますが、どうして旅を?」


「人探しだよ。話ではその人は魔法が斬れるらしい」


 それを聞いたエリナは驚きの表情を浮かべる。


「魔法が斬れるなんて、にわかには信じられませんね」


 それもそうだろう。自分でもまだ信じられない。

 だがヒュー爺が下手な嘘を吐くとも思えない。


「聞いたことないよな?」


「聞いたことないですね」


 即答。聞いた数がまだ一人とはいえ、聞いたことがないと言われるとこれから先が思いやられる。


 これからのことを考え、表情が暗くなっていくルドを横にエリナが刀を見て疑問を口にする。


「腕試しですか?」


「え? なんで?」


 エリナの唐突な疑問に聞き返してしまう。


「いえ。この国では流行っていると聞いたので」


 何それ、物騒すぎる。


 エリナはルドの心中を察したのかすぐにフォローを入れる。


「と言っても、各地の剣士たちが剣客けんかくに腕試しすることらしいので、一般人には関係ありませんが」


 その説明に聞きなれない単語が出てきてルドは困惑する。


「剣客って?」


 その疑問にエリナは驚きの表情を見せる。


「知らないんですか。本当に?」


 私でも知っているのに……と呟いていたが、すぐに話し始めた。


「剣客っていうのはこの国で最も強いとされる三人のうちの一人。剣客ベルナール・ベステル、今現在は国王の命令を無視して各地を旅しているそうです」


「国王の命令を無視って……」


「王都の防衛を放棄して、「強制するなら他国に寝返る」と言ったらしいです」


 怖いもの知らずのその話に驚きつつ、ルドは話を促す。


「なので、剣客であれば探している人について何か知ってるかもしれないですね」


 探し人に直接繋がる情報は得られなかったが、その人を知っているかもしれないという人の情報が得られただけでも十分大きな成果だと言える。


「ありがとう。エリナ」


「お役に立ててよかったです」


 そう言うとエリナは笑ってみせた。

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