第2話 少女との出会い

 自分で探すと豪語ごうごしたものの、冷静になって考えてみるとヒューゴからは何も聞けていないことに気がつく。


 名前ぐらい聞き出しとけばよかったなと後悔しながらも足を進める。


 昔から魔法を斬る戦友がいるにも関わらず、それを教えず意味のない魔法の勉強をさせたり、剣で魔法には敵わないと言わんばかりに俺を負かしたりして一体どんな気持ちだったのだろう。嘲笑あざわらっていたのだろうか。


 たった一人の家族であるヒューゴを疑いたくないという気持ちとネガティブな感情がせめぎ合う。

 考えても答えが出てくるわけがなく、ルドは考えるのを止めた。


 森に入り、茂みをかき分け、けもの道を進んでいく。


 以前、近隣の村にヒューゴに連れて行ってもらったことがあるおかげで迷うことはない。

 途中、植物を採集したり、獣を狩ったりして空腹をしのぎ、そうして二日、森を歩き続けると木々が開け村へと辿り着いた。


「着いた……」


 やはり、森の中と村では安心感が違う。


 村へと足を踏み入れ、宿へと向かう。慣れない森を二日歩いたこともあり、疲労はかなり溜まっていた。受付に行き、髭の濃い男性に話しかける。


「一泊……」


 言いかけてすぐにやめた。やめた理由はただ一つ、お金がない。


「なんだ?」


 受付の男性が顔を上げ不思議そうに聞き返す。


「すみません。何でもないです」


 恥ずかしさを紛らわせるため、ルドは愛想笑いを浮かべながらその場をそそくさと去った。


 その後お金がなく、何をするわけでもないが村を散策する。


 この国の辺境に位置する村という事もあり、王都から物を売りに来ていた商人以外に目を引くようなものは何もなかった。

 そうしてお金がないと何もできないという現実に悲しくなったルドは村をあとにした。



 村を出たルドは森の中で一人迷子になっていた。


 最初は街道を通っていたのだが空腹が限界に達し肉を求めて森の中へと踏み入れた。

 結果として獣を狩ることができ腹は満たせたが、食料調達に夢中になりすぎて街道へ出る道を見失ってしまった。


 村を越えた後の地形は把握出来ていないため、ルドの心に焦りが生まれ始める。

 考えても仕方ないため取り敢えず歩みを再開し街道を目指す。


 ただ歩いても暇なので、これからのことについて考えを巡らせる。

 取り敢えず目指すべき場所は王都だろう。

 ヒューゴの言う人の顔も名前も知らないが各地から人が集まってくる王都に行けば何かしらの情報は得られるはずだ。そこで得た情報を元に探せば一年くらいで見つかると思う……。この国に居ればという条件付きにはなるが。


 この国にいない場合どうしようかなと思いながら、茂みをかき分けていると急に視界が開けた。


 瞬間、淡い紫色の髪をなびかせた可憐な少女が目の前を颯爽さっそうと走り去っていく。


 何事かと驚き、少女の走ってきた方向へと視線を向ける。


 すると物凄い速さで二体の犬型の魔獣が追いかけてきているのが見え、肩にぶら下げていた刀を持ち直す。


 そうして状況を飲み込んだルドは全力で走り出した。少女の方へ。

 魔獣に追いつかれないように全力で走り、前方の少女へと追いつく。


 横に並んだルドを見て少女が話しかけてくる。


「あのっ…すみません。あの魔獣……どうにかっ……してくれませんか……?」


 少女は息が上がっているせいか途切れ途切れ言ってきた。


「どうにかできるなら走ってない」


「ですよねぇ……」


 二人ではどうしようもないという事を共有しながら森を走り続けた。

 そうしてしばらく走り続け森を抜けて草原に出る。


 振り返るとすでに魔獣の姿はなく、逃げ切ったのだと安堵あんどする。

 二人とも息も絶え絶えで倒れるように地面に座り込む。


「なんとか逃げ切ったみたいですね」


「だな」

 

 しばらくの間、二人は喋ることもなく息を整える。

 二人の荒い呼吸だけがこの場を包み込む。


 そんな中、喋るだけの余裕が確保できた少女が話しかけてくる。


「あの巻き込んでおいてどうかとは思うんですけど……」


 少女の何か言いたそうな物言いに疑問を覚え聞き返す。


「なんだ?」


 少女はルドの持つ刀を指さし答える。


「その剣でどうにかならなかったんですか?」


「巻き込んでおいて、よく言うな!」


 少女の言葉にツッコみつつ説明する。


「森の中で刀振り回すのは厳しいし、魔獣があの二体とは限らないからな」


 茂みに隠れていた魔獣が襲い掛かってくる可能性もある。

 それも考慮するとやはり逃げるのが正しい判断だと言える。


「そもそもなんで追われてるんだよ」


 少女に単純な疑問を投げかける。


 普通、魔獣と遭遇する確率はかなり低いはずだ。


「知らないですよ。私が知りたいぐらいです」


 そんなに自信をもって言われても困るのだが。

 彼女曰く、そういう体質らしい。


 一通り息も整い立ち上がる。そうして王都に行くからと別れを告げると彼女は満面の笑みでとんでもないことを言い出した。


「私も付いて行っていいですか?」


「え?」


「私もついて行っていいですか?」


「誰が二回言えと」


「もしかして置いていくんですか? か弱い女の子を一人、こんなところに?」


「さっきまで一人だっただろ」


「一人だとまた追われます」


 そんなに自信をもって断言されても困る。この少女の同行を許すという事は魔獣に遭遇しやすくなるという事。どうするべきか頭を悩ませていると少女は再び。


「次追われたら死にます。確実に死にます」


 だからそんなに自信をもたれても……


「あー、もう分かった。分かったから」


 多分、というか絶対に拒否しても付いて来る。

 そうしてルドの根負けという形で少女の同行が決まった。

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