第6話
昨日の金額が頭から離れない。
今日のランチに850円払ったのだが、それよりも遥かに安いなんて。
850円のランチは午後から半日分のエネルギーの金額。
それに比べて、二人の思い出220円。
すっきりとした本棚の上や、食器棚の中身、部屋は新しい風景に変わったが、
まだ慣れない。
二人の写真も、涼子が来てくれた日に全部消した。
私の事だから絶対見返して思い出すからと言って。実際にそうしかねない。
頻繁に鳴っていたスマホも沈黙が多くなった。
ソファに座り、特になにもしないダラダラと過ごす時間も増えた。
無理矢理でも、なにか用事を作って気を紛らわしたいのだが、
私はその術を知らない。
テレビをながら見しながら、スマホを片手に漫画の無料話を読み漁る。
続きが気になったら、購入。
増えたはずのスマホの容量は漫画のデータに変わった。
しばらく読んでいくうちに喉の渇きに気付き、冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫のドアを開いて、ボトルの水を飲む。
冷気が足元に漂う。
奥の方に、銀が鮮やかに輝くビール缶を見つけ、取り出してみた。
冷蔵庫の中身までは、片付けていなかったことに気付き、私は飲めないので、すぐに別れたあの人の物だと分かった。
深い溜息をついて、そのまま机の上に置いた。
スマホに持ち替えて漫画の続きを読む。
でも、内容が頭に入らない。
ビールを見つけたのをきっかけに、220円分の思い出と、消したはずの写真が、
心を埋め尽くす。
スマホを机に置き、この感情に身を任せてぼーっと考えてみる。
自己嫌悪、自己分析に近い思考回路だ。
どうすれば忘れられるのか。
答えらしい答えは出ず、空回ってぐるぐる巡るだけ。
漫画でも読もう。出てきた答えはこれだった。
読み進めていくと、どの漫画も皆嫌な事から逃れる方法の一つとして
お酒を飲んでいる事に気付いた。
それも、美味しそうに。
幸い、お酒ならある。この嫌な事から逃れよう。
炭酸が抜ける音が一瞬だけ聞こえタブを戻す。
苦っ。
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