第5話

昨日、涼子が来てくれて本当に良かった。

あのまま一人でいると、ズルズルと引きずっていたに違いない。

どこから何をしていいか分からず、何が正解なのか分からず、その場に留まろうとしている私をグッと引っ張てくれた。

今度なにかお礼しなきゃな。

帰りの車の中で、思う。

いつもの帰り道から少し外れて、リサイクルショップへと向かっている。

後部座席に乗せた段ボールを売ろうとしているのだ。

数分後、リサイクルショップに着き、段ボールを抱えて店内の買取コーナーに持って行った。

代わりに、番号札を貰った。

店内をぶらついて、綺麗に並べられ次の持ち主を待ってる商品を眺めた。

しばらく、眺めていると店内放送が私を呼んだ。

店員は私に一枚の紙を見せてくれた。

そこには、220円と書いてあった。

段ボール一つ分の二人の思い出は、この世界ではこの金額なのかと思い、ゾッとした。

当時は、かけがえのない存在だったはずなのに、220円という現実を突きつけられた。

どんなに幸せでどんなに楽しくてもは所詮、二人だけに存在し通用する世界だった。

頑張って貯金してプレゼントした物も、遊園地で買ったおそろいの物も、全部、幻、魔法の類なのかとも思う。

魔法が解けて、現実に引き戻された気分。

家に帰り、私は重たいままの段ボールをそっと床に置いた。



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