第3話
朝から雨が降り、まるで霜村初穂の心を映しているようだ。
昨日、彼氏の浮気が発覚し、そのまま別れた。
ショックから昨日のことはあんまり覚えていない。
ただ、別れたという事実だけが残った。
毎朝していた短い連絡も今日から無いんだと、鳴らないスマホを眺めて思った。
何が彼をそうさせたのか、何がいけなかったのという自己嫌悪はまだ拭い切れずにいた。
幸い、今日は日曜日で仕事は休みということもあって、時間だけはたっぷりある。いや、まだ仕事をしている方が気は紛れるのかも知れない。
顔を洗いに、洗面台の前に立ち、自分の顔を見た。
寝たはずなのにすごく疲れた顔をしていた。
泣き腫らした瞼が、事の大きさを表している。
時間が解決してくれるだろうと思い、冷たい水で濡らしていく。
テレビをつけて、いつもよりも音量を上げてみた。
決して、何か注意を引く内容があった訳ではない。
少しでも、一人でいるという気分が紛れるかと思っての行為だ。
それに好きな音楽をスマホから流してみる。
それでも、気持ちは動いたり動かなかったりと、頭と心が別々に動いているような不思議な感覚に陥っている。
しばらく、ソファに座りただただ時間が過ぎていくという時間を過ごしていた。
音楽が止まったと、思ったら、着信音に変わった。
「もしもし。」
少し無理して元気を装って声を出した。
「もしもし。久しぶり。元気してた?」
電話の相手は中学からの友達の、藤原涼子だった。
「元気してるよ。どうしたの?」
嘘だ。本当は元気なんかない。
「いま、テレビ見てたら、この辺で新しくできたカフェが紹介されてたから今から
一緒に行かないかなって思って。」
そんな事を放送していたのか、つけてはいたが見てなかった。
「そうなんだ。でも、ごめんね。ちょっと今日はやめておくよ。」
「わかったよ。じゃあ、またね。」
「うん。」
再び、スマホから音楽を流す。
今はそんな気分じゃない。
テレビをつけても、音楽を聴いても、この気持ちは晴れやしない。
部屋には、昨日まで二人が生活していた光景が広がる。
部屋のどこを見ても、生活に必要な物は二人分ある。
見る度、思い出す。
今の私には残された片方はただの不要物となった。
ペアだったグラスにコーヒーを入れる。
黒い水面に自分の顔が映る。
さっきよりは、少し良くなったと思う。
ピンポーン。
部屋に来客を知らせるベルが鳴った。
グラスを机に置き、玄関に向かう。
鍵を開け、ドアを開けた。
「やっほ。」
立っていたのは、藤原涼子だった。
「どうしたの?」
「やっぱりね。ちょっと上がらせてね。あ、これあげる。」
涼子から、白い小さな袋を受け取った。
「ありがと。」
テレビの音量を少し小さくする。
「急にどうしたの?」
机に、貰った袋をおいて初穂は涼子に聞いてみる。
「いやぁ。やっぱり合ってたか。」
「合ってた?」
「うん。さっきの電話の時元気なかったでしょ?今もそんな感じだけど。」
バレてる!?
「隠しても無駄よ。何年友達やってると思ってるの?いつもと様子がおかしいから
直接会いに来た。」
初穂とは中学の時に出会い、席が隣になったことがきっかけで仲良くなった。
楽しい時も悲しい時も辛い時もいつも側には初穂がいてくれた。
親友と呼ぶにふさわしい、と私は思ってる。この関係が親友と呼べないなら、本当の意味は知らなくてもいいわ。
「突然来るからびっくりしたよ。それとさっきはごめんね。」
「それはもう大丈夫だよ。」
涼子は白い小さな袋から、プリン、ティラミス、それとカフェオレを二つずつ
取り出した。
「それで何があったの?」
カフェオレのボトルにストローを差しながら言った。
涼子に隠し事はできない。そんな関係性ではないのだ。
中学の時に出会い、自然と意気投合し、一緒に吹奏楽部に入り、楽しい時も悲しい時も辛い時もいつも側に涼子がいてくれた。
親友と呼ぶにふさわしい、と私は思ってる。この関係が親友と呼べないなら、本当の意味は知らなくてもいい。
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