第6話 少女の祈り

本堂の御神体に必死に祈りを捧げる少女。

震える手、走馬灯のようにごった返す記憶。今にも山賊が本堂の扉を蹴破って来るのではないかという恐怖。

目を開き、御神体を見つめる。女性のような顔立ちをした御神体が、冷たく少女を見下ろしていた。

その下にある短刀を見た。

本来ならあれを使って、自ら命を絶ち、神の元に帰るはずだった。

こんな状況では儀式なんてもってのほか。多分、山道から見た火の手からして、村は大部分が山賊に蹂躙されてしまっただろう。

そんな中、私だけが死に、神様の元に帰るなんて許されるのか。

私が不完全だったから、私の祈りが足りなかったから、村は襲撃された。

きっと村のみんなは私を恨む。呪う。

巫女がしっかりしてないから。

だから、今は必死で祈りを捧げるしかない。

この生がある限り、今は祈る事。それしかできない。だから、今は死ねない。

村のみんなの為に、この信仰の為に、両親の願いの為に、私は祈る。

巫女として生まれたその生命を燃やすように、必死に、必死に祈った。

救いを求め、見下ろす御神体を見つめた。



助けて、助けて、助けて、助けて、助けて。



弱い自分には、祈る事しか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る