第5話 走馬灯の話(2)
山道を下り、村の入り口まで戻ってきた少女に、少年が声をかけてきた。
「おはよう月詠(つくよ)、いよいよ今日だな」
そう話しかけられた少女、長い黒髪を腰まで伸ばし、幼さが残る顔立ちだが凛とした佇まいは360度どこから見ても美少女という言葉がぴったり当てはまる。
「おはよう、祐介」
おう、と手を振り祐介が笑顔で近づいてきた。
「どうだよ?緊張してる?今日も朝からお祈りしてきたんだろ?毎日すごいよな。さすが巫女様は真面目」
ケラケラと笑う祐介を見て、月詠が指摘する。
「祐介が不真面目なだけ。お祭りの準備、抜けて来たんでしょ?あっちで親方が怒鳴ってるの聞こえない?」
そう言って指差した先に顔を真っ赤にした親方が金槌を振り回し、早く戻ってこいと大声で叫んでいた。
「やべーこれは。月詠、今日昼過ぎ時間あるか?どうしても話したい事があるんだ。」
「準備で忙しいけど、少しなら大丈夫だよ?何?」
真顔で聞く月詠に対し、祐介は顔を赤くしながら
「その時話す。じゃぁ俺は準備に戻るから。またな!」
そういうと親方の方に駆けていった。
祐介はこの村で私と唯一の同い年。ずっと仲良しだった。今日でお別れって思うと寂しくなるけど、でもそれが村の掟だから仕方がない。
私の命は神様から御借りしている大事な命。だから、仕方ない。
「仕方がない・・・よね。」
元気に手伝いをする祐介を遠目で見ながら、ふと呟いた。
家につくと父と母、が出迎えてくれた。
「朝のお祈りお疲れ様、月詠」
そういうと母は優しく私に包容した。お祈りから帰った後はこうして必ず包容してくれる母が、私は大好きだった。
父は居間で私の巫女服を準備してくれていた。
「月詠、おかえりなさい。さぁ、着替えて祭りの準備をしよう。」
少しうつむき加減で元気のない父。
私は今日で死ぬけど、でも大丈夫だよ。神様の元、ずっと見守ってるからね。
そう思いながら巫女服に袖を通す。すると妹の優奈(ユナ)が2階から降りてきた。
「おねーちゃんおかえりー!」
相変わらず元気の良い妹。
「優奈、お祭りの準備は?さっき探されてたわよ?」
「めんどくさいから逃げて家で隠れてましたー!」
悪気のない笑顔でしれっとすごい事を言う妹。こんな日常が私は好きだ。
「優奈!今日はおねーちゃんにとって大事な1日なんだから、ちゃんと協力しなさい!」
お母さんが奥の間から優奈を叱りつける。
「はーい。じゃぁめんどくさいけど、準備に戻るー」
足早に扉から出ていく妹。
「おねーちゃん準備終わったらすぐ戻ってくるから、巫女服完璧に着ておいてね!おねーちゃんの巫女服姿すごく綺麗だから好き!これからも・・・見て・・・」
「・・・・・」
優奈、ごめんね。寂しい思いさせちゃうよね。でも、私、これが掟だから。
「なんでもない!いってきまーす!」
勢いよく扉を閉め、優奈は手伝いに向かった。
私は今日いなくなる、そう、死ぬ。死ぬんだ。でも大丈夫、私は、こんなにも家族に愛されて育った。巫女として神職を全うする。それが私の生きる意味。
だからそんな顔をしないで?お父さん。
巫女服に着替え準備をすすめる私を、悲しそうに見つめるお父さん。
そして、それを見てられず奥の間で作業するお母さん。
あぁ、私はなんていい家族に恵まれたんだろう。改めて私は思う。
きっと死んでもこの想いは消えることはないだろう。
これが、平和が終わる少し前の話。
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