第3話 巫女の祈り

静寂の中、少女は必死に御神体に向け、祈りを捧げた。震える手を合わせ、何度も何度も神様に祈りを捧げた。

少女にはそれしか出来ない。それが父と母の願いならなおさらのこと。

神様に仕え、巫女の職務をこなし、巫女として死ぬ。

それが少女の人生で、運命で、全てだった。

怪我はしていないが、精神が限界だった。

たった1時間程度の出来事だったが、少女の脳裏にはありとあらゆる残酷な場面がインプットされ、それがフラッシュバックし、精神を崩壊させてゆく。

それに負けじと必死に祈りを捧げるその姿は、小さく、か弱き者の様。

弱肉強食の世の中で、祈りや神といったものがいかに無力かを、少女は実感していく。しかし、それでも少女は祈る。

-----

村のみんなを、どうか、どうかお助けください。

(どうやって?)

父と母、妹たちが無事でいられますように。

(あの断末魔は?もう死んでしまったのでは?)

神様、お願いです。助けて、助けてください。

(本当は神様なんていないのでは?)

助けて、助けて。

(助ける?誰が?)

-----

願いとは対称的な疑心が心を蝕んでいく。

祈ること、少女にはそれしか出来ない。それがいかに無力なことか。

16年、巫女の職を全うしたが、その自分がガラガラと壊れていく。

決められた事しか出来ない、やらない。自分がしてきた事はすべて無意味だったのか。

体中から力が抜けて行くのを感じていた。まるで神様を信じない罰とでもいうように、生気が抜けていく。

死が急速に迫ってくる感覚に、頭の中で走馬灯が駆け巡る。

それは今朝、何事もなかった平和な一日、私が巫女として終わりを迎える、自分の人生最後の、一日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る