第1話 山賊の襲撃(1)

「はぁ、はぁ、はぁ、」

御堂に続く山道を、1人の少女が駆けていた。身に纏う巫女服は、沢山の返り血を浴び、真っ赤に染まっている。

・・・なぜ?

・・・どうして?

頭の中でひたすら問答を繰り返しながら、とにかく走った。

巫女として生まれ、物心つくころから神に仕えてきた。

祈りを欠かしたことなんて一度もない。

・・・なのになぜ?

少女は必死に走りながら、自問自答を繰り返す。

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本来であれば今日、少女は掟に従い自ら命を絶ち、その御霊を神に御返しする祭りが行われるはずだった。

「「巫女返しの儀」」

村に代々伝わる掟で、巫女は神様から御借りしている存在。

その巫女が16歳の誕生日を迎えた時、神様に巫女を御返しするという習わしだ。

16年前、神のお告げによって先代の巫女様より命を受け、巫女として今まで生きてきた。

今日、その役目を終えるはず・・・だった。

祭りと儀式の準備の為、村のみんなが総出で準備している時、事件は起きた。

山賊が襲撃してきたのである。

山間の辺鄙な場所に位置するこの村に山賊が来るなんて初めてのことだ。

刀や斧で武装した山賊達が、村の男衆を次々に殺戮し、女子供を縛り上げていく。

血に染まる大地。そこかしこで悲鳴が上がっていた。

300人前後の小さな村に30人くらいはいるであろう武装した山賊達。

村は瞬く間に侵略、略奪、蹂躙されていった。

儀式の為、家で準備していた少女だったが、村の騒ぎに気づき、外を見ようと扉を開けると同時に、村の男が血だらけで入ってきた。

「山賊が、山賊が襲撃してきました、巫女様、お逃げください!」

そう言った途端、男の首と胴体が離れた。そして、血まみれの鉈を持った山賊が家に侵入してきた。

少女は目の前で何が起こったのか一瞬理解出来ずパニックになりそうだったが、落ちた首の「グチャ」っという鈍い音でなんとか踏みとどまった。

「いい女がいるじゃねぇか。これは俺のだな」

ニヤニヤと呟きながら鉈を握り直す山賊の殺気と恐怖で、その場に立ち尽くしてしまった少女だったが、咄嗟に父が後ろから

「裏口から御堂まで逃げなさい。ここはなんとかする。」

そう大声で言うと、山賊に掴みかかった。不意を突かれた山賊と取っ組み合いになっている隙に、なんとか我に返り裏口に向かう。

母が裏口の扉を開けて、「御堂に行って、祈りを捧げて。神様は必ず私達を守ってくれる。それが出来るのは貴女だけよ。お願いね。」

怖がらせまいと微笑みながら、そっと少女の背を押し、裏口の扉を閉めた。

少女はこみ上げる涙を堪えながら走ろうとするが、すぐに後ろで両親の断末魔の叫びと惨殺音が耳に入り込んできた。

恐怖で震えながらも、母の最後の言葉を守るべく、少女は走った。

山道から村を見渡すと、少女にとって平和が崩れさったことを理解させるには十分な光景が広がっていた。

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