西は東出くんを惑わす
火田タカヒロ
序章 スカイツリーが通天閣
「お兄ー!早く!早く!」
「お、おー。」
妹の由奈ははしゃいでいた。
「あ!見て!グリコ!グリコ!」
ほぉこれがグリコか、テレビのまんまだな。
ここが難波のひっかけ橋か、ああ来ちまった大阪に。
「おい由奈!もう行くぞ!もうすぐ面談時間だぞ。」
「あーうん。お兄も関西弁に馴れていかないとね。あっアニキも関西弁に馴れないとあかんでぇー」
その関西弁合ってんのか?いやそもそもアニキは関西弁じゃないだろ。
「でもお兄って東京でもたいして話すような相手いなかったかー。友達もいない陰キャだもんね。」
「うるせえ、バカにしやがって。」
まあそれは本当なんだが、俺は東京の学校でも友達は居なかったし、ラノベや漫画やゲームの最新作がいち早く手に入る場所だったらどこでも良かった。
どうせどこに居てもぼっちには変わりないし、きっとそうなるだろう。
でもあの両親はどうかしているよほんと。
喋らないと死ぬと言われている関西人のいるこの地に妹と二人送り込まれたのだから。(偏見)
村の少年Aと天才魔法使いが魔界に転移させられ旅をする物語が始まるみたいな展開。怖いよ陽キャ。ましてや聞き慣れない言語を使う陽キャ。
あー怖いよ、怖いよ。ことあるごとにしばくぞ!って言われんでしょ?
俺が言うのもなんだが、妹は美少女だ。
何でもできてしまう。愛嬌がある。学校では常に中心にいる。いや妹自慢選手権なら全国行けるだろう。決してシスコンなどではない。妹がちょっとブラコンなだけだ。だけどチャラ男が妹に近づくもんなら俺でも緊急スキル「暴逆」を発動させるから覚悟しとけ。まあカバンの中身を投げつけるだけなのだがな。
まあ由奈が魅力的過ぎるから俺は大阪にいるんだよなぁ。
考えているうちに大きなビルの入口に着いた。
高いビルだな。
由奈と二人して見上げたビル。
入口には「大本興業株式会社」と書かれている。
日本を代表する最大手芸能事務所、沢山のテレビ番組のMCやお笑い芸人の所属している。とは言っても由奈と兄妹漫才をするわけではない。
入口に入り、受付の女性にたずねた。
「すいません、あのアストロプロダクションの方と会う約束があるんですが?」
「確認を取りますね、お名前は?」
「東出由奈と保護者代理の東出大亜です」
「少々お待ち下さい」
アストロプロダクション、大本興業傘下で、主にアーティストや俳優などが所属する芸能事務所だ。
最近では大河俳優や紅白出場アーティストなども出している。
俺と由奈はそこに用事があったのだ。
「確認が取れました、6階アストロプロダクションの応接室にお越し下さいとのことです」
「ありがとうございます」
案内されたエレベーターに乗り6階まで上がる。
扉が開くとオフィスが広がり、何人もの人が忙しく動いている。
「すっすいません、あのー」
俺は近くにいたマネージャーらしき女性に話しかける。
「あっスカウトされた方ですか?わぁまた逸材二人も流石だわ、斎藤くん。ちょっと待ってて下さいね、担当者呼ぶんで」
「ええ?いや、違います!スカウトではなくて、妹がW-GAに所属が決まったのでその手続きをしに来たんですけど」
「あっそうでしたか、すいません早とちりしちゃって、ということはお兄さんなんですね?」
と女性は何か含みのある笑みを浮かべる。
「僕ですか?ええ普通に付き添いで」
スカウトって俺がそんなもんされるわけないだろ、由奈ならまだしも。
「応接室はこちらになります。担当が参りますので、少々お待ち下さい」
「わかりました」
女性とのやりとりを見て由奈はクスリと笑う。
「な、なんだよ!」
「ん、別っつにー」
妹と並んで座って暫く待っていると、コンコンと鳴ると同時に担当者が入ってきた。
いかにもキャリアウーマンって感じの女性だ。
「すいません。お待たせしました。統括マネージャーをしております、早野亜紀です」
由奈と俺は立ち上がりお辞儀をし名刺を受け取る。
「東出由奈です。本日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「兄の大亜です。妹をお願いします」
「なるほど山下さんが勘違いするわけだ」
「ん?」
「いや、私の1人言です。お気になさらずに」
さっきの山下さんといい由奈といいこの人といい俺の顔をみてニヤつくのはなぜだ。
さっき食べた、たこ焼きの青海苔が歯に付いてたりしてる?
ちゃんとトイレでチェックしたらよかったか。大事な妹の前で変な兄貴だと思われやしないだろうか?
国民的女性アイドルグループ、GIRLS BE AMBITIOUS《ガールズビーアンビシャス》グループ、そこの西日本支部にあたるのがWEST-GIRLS BE AMBITIOUS、通称W-GA 《ワーガ》である。 西日本では最大のアイドルグループで本家のE-GAと人気を二分している。
関西で生活ができる条件であれば関東出身でもオーディションを受けることができ、そのW-GAの3期生オーディションにめでたく由奈は合格したのである。
まあ合格は当然だ。由奈なんだから。
「それでその、ご両親の方は?」
「それが、両親の方が忙しいもので僕が代わりに来させていただきました。同意書も持ってきました。」
「由奈さんのお住まいと学校に関してですが、お母様のご兄弟所有のマンションにお兄様とご一緒にお住まいになるということでよろしいでしょうか?」
「はい、僕も妹と共に引っ越して面倒を見るつもりでいます。学校も芸能コースのある学校に入学手続きをしております。」
「由奈さんの為にそこまでするんですね。お優しいお兄さんですね。」
「いや、俺は特に何も無いので妹をサポートできればと思いまして。それに寮となるとちょっと心配で。」
「ふふ、妹さん大好きなんですね。」
「いや、別にそんなんじゃないです。。俺も関西で新しい生活してみたいと思って。」
全然そんなことは思ってはないんだけどな。
「それでは改めて、活動等のご連絡をさせていただきますね。それでは由奈さんこれからよろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。」
事務所をあとにし、地下鉄、JRと乗り継ぎ新生活を始める尼崎に向かう。
「お兄」
「ん?なんだ?」
「ありがとね、付いてきてくれて」
「なんだよ急に、ほら、あれだ長い旅行だと思って楽しむよ」
これから俺と由奈の生活はガラリと変わるだろう。少なくとも由奈はアイドルになる。
俺の方はどうなるかわからない。
急に関西に住むことになったんだ、無理もない。
由奈はまだしも俺はうまくやっていけるのだろうか?
西は東出くんを惑わす 火田タカヒロ @umia
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