第3話 ご飯をおいしく食べるために…

 ここから2話ヒロイン出てきません(唖然)

 

 読んでいただけると幸いです…(最悪読み飛ばしていただいても…)


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 チャイムの音が聞こえた。


 その音で俺は意識を覚醒させる。


 チャイムの音で意識を覚醒させることは俺の特技の一つ。どんな状況でもほぼ確実に意識を覚醒できる。

 

 原因は一回チャイムを寝過ごしたとき、次の時間が移動教室だったらしく誰も教室にいなかったこと。いつもは嫌にうるさい教室の静寂さが俺の心を確実にえぐった。

 …というかだれか起こしてよ。まあ友達いない俺が悪いんだけどね。


 それ以来チャイムの音がトラウマさえある。


 ちょうど昼休みが始まったようで、教室から早弁で昼をすました男子がサッカーボールをもって飛び出していった。きっと仁義なきコート争奪が繰り広げられているのだろう。


 それをしり目に俺は残っていた現国の板書を写す。

 いつもテストが何とかなる現国は全部寝ているし、ノートも書き写さないから今日は珍しいといえるだろう。朝5時半まで働いて、授業中寝なかったらそれはたぶん人間じゃない。(開き直り)

 

 そう心の中で言い訳が終わると、教室の中から机を動かす音が聞こえてくる。

 男子がいなくなった教室=女子の巣窟。女子たちが机をくっつけて昼ご飯を食べる準備をしている。

 こういう時、そのグループのリーダーの机の周りに集まる確率が高い。俺調べ78%。…それ多いのか?まあ四捨五入したら10割だし。十の位で四捨五入してるけど。


 少なくとも今日はその法則が適応されているようで、七星香菜の周りに数人の女子が集まっている。

 

 七星香菜はクラスどころか学校でもカースト上位である。…まああの容姿ならよっぽど関わりにくくもない限り当然だろう。

 

 ノートに板書しているどさくさに紛れてちらりとそちらを見る。

 

 彼女はいつもと変わらない様子で赤い風呂敷の上に弁当箱を広げていた。


 …よかった。今朝のバーテンダーが俺だとは気づいていないようだ。こちらを見るようなそぶりはない。


 それだけ確認すると、まだノートを書き終えていないが現国のノートを閉じる。


 そして急いでバッグの中から弁当を取ると、そそくさと教室を出た。

 

 女子の巣窟には、男子はいにくいのだ。別に教室にいてはいけないということは言われてはいないのにもう教室には男子はいなかった。


 

 この学校で昼食をとれる場所の候補は主に二つ。

 

 一つは教室。これはなしだ。あんなところで飯を食べたら気まずさで飯の味なんてわからない。

 

 もう一つは学食。この学校には学食が存在する。手ごろな値段でそこそこの料理を食べれるから、生徒だけでなく保護者からも支持されている施設だ。

 しかしここもパスだ。

 理由は席数。この学校は一学年350人強いる。三学年合わせると1000人を超える。しかし学食の席数は250くらい。さらに学食を利用していない人もその席を利用するため、かなり早くに行かないと席に座れない。

 

 それだけならまだ行く可能性があるだろう。


 でも決定的にいかない出来事が起きた。

 

 これは俺の友達の話だ。

 

 その日弁当をもってきていなかったO君は、学食へ行きました。O君は初めての学食でテンション高めでした。

 いつもより早く教室を出て、食券を買いました。その日のメニューは唐揚げ定食。男子高校生で唐揚げ定食が嫌いな人なんていません。(偏見) O君はさらにテンションがあがりました。

 そして席について、唐揚げをひとくちほおばります。格別おいしいというわけではありません。でも弁当では味わえない暖かさとカリカリ感を感じ、O君は感動しました。

 O君は明日からもこの学食を利用しようと決意――――しませんでした。


 O君の隣になんの断りもなく野球部の3年男子4名が座ってきたのです。

 それもそのはず。すでに学食はほぼ満席。この学食はすべて六人座れるテーブル席なのでO君もとい荻野君の隣の席が丸々空いているのです。

 そこから荻野君は坊主頭と気まずい昼食を共にしたとさ。おしまい。


 …まあ完全に俺の話だね。途中から名前変わってたし。

 第一友達いないから初手から矛盾している。



 ここはそんな俺が見つけたベストランチスペース。一人静かに昼食を食すことができる。しかもこの場所には古びてはいるがソファーもあるから昼寝にももってこいだ。

 

 津田高校は歴史ある学校であるため校舎は馬鹿でかい。きたないけど。ここは学校のはずれの特別棟にある昔使われていた何かの部室。何部だっけ?確か…


 「わりーけど、ここでかくまわせてくれ」


 そういいながらガラガラと一人の男がドアを開け、俺のパーソナルスペースを汚してくる。迷惑だからやめてほしい。おかけで飯がまずくなった。

 

 こいつは光。苗字は忘れた。

 覚えてもすぐ忘れるくらいはどうでもいいやつだ。

 身長はマスターと同じくらい。説明できないが無性に殴りたくなる顔をしている。

 中学時代からの腐れ縁だが一つだけ言おう。


 こいつとは断じて友達ではない。


 なぜならこいつは“クズ”だからだ。少なくとも俺が出会ってきた中で断トツの。


 そうこう言っているうちに光は奥にある掃除ロッカーの中に入った。…あそこ相当臭いのによく入る気になる。


 どうせこの後の展開なんて決まりきっているのに。


 ガラガラとまた扉が開く。


 「…俊介じゃん」


 「……久しぶり」


 口の中の食べ物を一度飲み込んでからそう答えた。

 現れたのは後藤優紀。こいつも中学時代からの付き合いだ。

 一言で 女子にしては体格がよく、何しろ柔道部所属。しかも1年のときに全国まで行ったらしい。とてもじゃないがもやしっ子の俺らじゃかなわない領域にいる。

 

 ちなみに一言で彼女を説明するなら“生まれた時から不幸が決まっていた女”だ。光と幼馴染とか前世でどれだけ悪行を行ったか想像もつかない。

 ちなみに光は来世これ以上の不幸が降りかかると俺は確信している。


 そんな彼女が怒った表情でこの部屋に入ってくる。


 「光、見なかった?」


 「いや、心当たりはないな。あいつまたなにかやらかしたのか?」

 

 だいたい光が隠れてるときは、奴がトラブルを起こして優紀に追われているときだ。これは俺調べ100%。…それって“だいたい”じゃなくて“絶対“だね。

 …まあ一応そうじゃない可能性もある。優紀を落ち着かせる目的でも俺は一旦ごまかし事情を聴く。


 「…あんたのクラスに木頭って人いるじゃん。サッカー部の」


 俺の頭のリソースから、クラスメートを思い浮かべる。

 …木頭、木頭、木頭。思い出した。


 「……あのイケメンか。それで?」


 「……あんたクラスメイト思い出すのにどんだけ時間かかんのよ。しかもあいつ目立つほうでしょう」


「まだ四月だろ。それに今眠くて頭があんまり回ってないんだよ」


 木頭というのはうちの高校のサッカー部のエース。高身長イケメンと軒並みハイスペックで、天は二物を与えずというのが嘘だと証明しているような奴だ。

 無口だが性格もいいらしく、今もクラスの中心となってグラウンドでサッカーをしているだろう。

 しかもめちゃめちゃモテる。うちの学年の四分の一くらいの女子は彼に告白して、そして散っていった。

 …思い出すだけでムカついてきた。俺なんて高校入ってから告られたことないのに。飯がさらにまずくなった。


 「あいつに私のクラスの子が告ったんだって」


 「…で、振られたと」


 「そこまで確定事項なんだ」


 そりゃそうだろう。

 振られてなかったら、問題にはならなそうだし、第一あいつには好きな人がいる。俺も最近気付いたけど。ボッチの観察眼なめるな。


 「どうせ光がその情報を流して金をとったとかでしょ」


 あいつはバイト代わりに情報屋みたいなことをして小銭を稼いでいる。

 親が厳しい人で、バイトをするのに親の承認がいるうちの高校ではバイトができない。だからうちの生徒から金をむしり取っているのだ。

 でもその情報は正確らしく、これといったクレームはつけられていないらしい。前に自慢していた。

 それで女子たちの逆鱗に触れたのか。ありうる…か?


 「…そんな生ぬるいわけないでしょ…」


 ですよねー

 俺が知っているあいつはそんなに甘くない。


 「木頭って断るとき、”わりー、今好きな人いるから“って断るらしいの」


 好きな人がいる。それは事実だ。

 でも女子の何割がそれを信じてるかわからない。 

 少なくとも優紀は体のいい断りもだと思ってそうだ。そんな表情をしている。


 「…その好きな人が彼女だってデマを流したらしいの。光が」


 「……」


 「しかも彼女が告った時の音声を録音して売ってるらしいの」


 「………」


 …やっぱりクズだ。

 どうしたらそんな発想が思いついて実行するのだろうか。


 「…なんだか無性に掃除用ロッカーが気になってきたなー」


 そういうと優紀の目をそちらに向けられた。

 

 危機を察知したのだろう。

 掃除ロッカーから逃げるように光が飛び出してきた。俺らに向かって突進してくる。


 優紀は光の正面に立つと構えをする。

 素人の目から見てもそれが精錬されたものだとわかる。

 

 優紀は突進してきた光の手をつかむと、その勢いを利用して宙に投げた。

 宙を舞った光はそのまま背中から地面に激突して、「…うごっ」という呻きを出して意識を落とした。


 きれいな背負い投げが決まった。


 技を決めた本人は「…ふう」と息をつきながら手をはたいている。

 

 「おつかれさん」


 「…あんた最初から知ってたでしょ」


 「…なんのことだか」


 「俊介ってホントいい性格してるね」


 「優紀の偏食ほどじゃないよ」


 「なんかいった?」


 「……いえ、何でもありません……」


 ぽきぽき指を鳴らしていた優紀は、ため息をつきながらこちらをにらみつけるのをやめた。…こわい。いままで暴力を受けたことないけどほんとこわい。


 優紀は軽く光のほほをたたく。どうやら覚醒させようと試みているらしい。


 その心地よい音を耳にしながら、俺は弁当を平らげた。

 うーん。うまかった。ついでに睡魔も襲ってくる。


 「俺寝てるからあんま大きな音出すなよ」


 それだけ言うと、俺は部屋にある古びたソファーに寝転んだ。睡眠不足と満腹、それに四月の暖かな心地よい気温が重なりすぐにでも眠れそうだ。そう思い俺は目を閉じる。


 意識が途切れる前に、「…ホント、あんたたちいい性格してるね」といわれた気がするが多分気のせいだろう。



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