第17話 なぞのばしょ

「ここは……?」


 真っ暗。何も見えない。


 転移魔法を発動したミィ。ポイントを設置しないでこの魔法を発動するとランダムに別の場所へ飛ばされてしまう。

 途方もなく遠い所へ飛ばされることはないので、魔王城のすぐ近くだと思うのだが……。


 幸い、身体は自由に動かせる。物体の中に移動したわけではなさそうだ。


「ミィ、大丈夫か?」

「うん……平気だけど……ユージは?」

「俺は大丈夫だ。

 今明かりをつけるから待っていてくれ。

 精霊よ、邪の者を払う剣となり、

 行く手をふさぐ漆黒を切り裂け」


 俺は詠唱して光魔法を発動。周囲に明かりを灯す。


「わぁ、明るくなった! すごい!」

「下級魔法のライトだ。大したことはない」


 自分で言っといてなんだが、これは本当に大したことない下級中の下級魔法。習得に必要な儀式も比較的簡単。それでもすげー面倒だったけどな。

 というか、こんな下級魔法を凄いと言うか。ミィなら簡単に習得できそうだけどなぁ。この魔法の存在自体知らなそうだし……。


 出現させたのは野球ボールくらいの光の玉。俺のそばに浮いて追従する仕様。光の加減はまぶしすぎず、暗すぎず。丁度いい感じの淡い光。蛍光灯と比べたらちょっと弱いが……それでも辺りを見渡すだけなら十分。


 光を得たことで状況が明らかになる。どうやらここは倉庫らしく、武具や食料なんかが整然と並べられていた。


 ぱっと見、魔王城の倉庫かと思ったが……どうも変だ。


「ねぇ……ここって」

「分からないが何かの倉庫らしいな。

 だが魔王城……ではなさそうだ

「どうしてそう思うの?」

「それはなぁ……」


 ここに置いてあるのは、どう見ても人間用のものばかり。


 特に目を引いたのは防具。獣人もオークも、人とは骨格からサイズが違う。人間が身に着ける防具は小さくて入らない。

 置いてあるのは明らかに人間サイズ。この国の兵士たちが身に着ける物ではない。


 それに武器。短剣とか細身の剣とか、人間が好んで使う武器が目に付く。こん棒や戦斧などオークが好む武器は見当たらない。刀剣類はゴブリンも使うが、これは大きすぎる。


 魔王城からそう遠くない場所に、人間が使う道具ばかりを納めた倉庫があるなんてな。いったい、なんだここは?


「ねぇ……ユージ。

 この人も一緒に来ちゃったみたい」

「げっ」


 そこには魔王がいた。まだ目を覚ます気配はない。

 まぁ、あのまま俺の部屋に置いてきたら、それはそれで面倒なのでよかった。


「どこか隅の方へ連れて行って寝かせとこう」

「あの……ユージぃ」

「なんだ?」

「もっ……もう……我慢できない……」


 そうか、あかんか。


「どこか隅に行って済ませて来い」

「え? ここで?」

「仕方ないだろう……ここがどこかも分からないし」

「わっ、分かったよぅ……」

「あっ、ちょっと待った」

「え? 何?」


 俺は近くにあった兜を取り、ミィに手渡す。


「もしもの時のことを考えて、これに用を足せ。

 現物が転がっていたら怪しまれるかもしれん」

「え? ううん……分かった」


 ミィは兜を手に取り、部屋の隅の方へ。物陰に隠れて用を足す。


 しばらくして……排便する音が聞こえた。

 女の子がしたとは思えないような、太い物が出てくる光景を思わせる音。聞こえなかったことにしよう。


 俺は彼女が用を足している間に、部屋の中を見て回る。

 やはり置いてあるのは人間用の物ばかり。魔除けや聖水、人間の宗教の経典など、魔族の領域に存在しないものが見つかった。




 コツ、コツ、コツ……。




 足音が聞こえる。誰かがここへ近づいているようだ。


「ミィ、こっちへ来い!」

「え? わっ、分かった!」


 ミィを俺の方へ呼び、近くにあった黒い鎧の陰に身を隠す。

 ライトの魔法を解除すると、辺りは再び暗闇に包まれる。


「ねぇ……いったい誰が……」

「しっ、来るぞ」


 廊下の方から光が近づいてくる。これは……ライトの魔法だ。


「おい、アリサ。本当なんだろうな?」

「うん、間違いない。こっちから反応が来てる。

 間違いなく魔族がいるよ」


 男の声と女の声。女の方の名前はアリサというらしい。


「ねぇ……マティス。

 本当に一人で大丈夫なの?

 ダクトとイルヴァを呼びに行った方が……」

「安心しろよ、俺一人でも平気だ。

 それに早くしねーと侵入者が逃げちまう。

 ここで確実に仕留めておいた方がいい」

「もしもの時は私も魔法でサポートするから。

 でも、無理はしないでね」

「わーってる」


 アリサの職業は恐らく僧侶。マティスとか言うのはアタッカーなのだろう。職業は戦士か……あるいは勇者か。どちらにせよ、面倒なことになったな。


 十中八九、ここは勇者たちのねぐら。奴らが破壊工作をするための拠点なのだ。


 相手は索敵魔法を使っていると思われる。だとしたらマズイな。敵は正確にこちらの位置を割り出すので、隠れたとしても無駄だ。


「……どうするのユージぃ」

「ミィ、よく聞け。

 俺は姿を晒して奴らの気を引く。

 君は隙を見て逃げるんだ

 ここは連中のアジト。

 たとえ人間であったとしても、

 奴らは侵入者に容赦しない」

「もしユージが危ない目に会ったらどうするの?」

「大丈夫だ、アンデッドだから死なない。

 身体が壊れても新しい身体を見つけて、

 乗り換えればいいだけの話だ。

 じゃぁ、行ってくるからな」

「待って!」


 俺の手を引いて引き留めるミィ。


「なんだよ」

「もしもの時は私も戦う。

 私はユージの味方だから」

「だが……」

「私たちは仲間だよ。

 ユージを置いて一人では逃げられない。

 それに……私は強いんだ。

 相手が勇者だからって負けないよ」


 一緒に戦う……か。確かに彼女がいたら心強い。


 しかし、この子は一つ勘違いしている。


 スケルトンの俺は戦力にならない。攻撃力も防御力も皆無に等しい。俺は一瞬でバラバラにされるだろう。そうなったらミィは2対1の闘いを強いられる。復活できない彼女に不利な戦いをさせたくない。


「いいかい、ミィ。

 俺はどんなに傷ついても……」

「ふわぁぁぁ! よく寝た!」


 この声は……! 俺は物陰から顔を出して様子をうかがう。


「なんだぁ……てめぇ?」

「え? 誰?」


 目を覚ました魔王。勇者と鉢合わせて目が点に。


 また面倒なことになった……。

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