第14話 翼人族

「私たち……をですか?」


 キョトンとする翼のある少女。

 茶髪のショートカット。両耳には大きな耳飾り。服装はへそを出した民族的なファッション。そして背中の猛禽類を思わせる立派な翼。天使でもこんな立派な羽は生えてないだろう。


「ああ、君たちを是非ともわが軍に加えたい」

「そんなこと急に言われても……」


 少女は明らかに困惑している。


 彼女は翼人族と呼ばれ、獣人とは異なる種族。他国からの移住を希望して魔王城を訪れたらしい。

 そんな人に対して急に軍への参加を求めても、困らせてしまうだけだ。


「確かに急だったな、すまない。

 しかし、どうしても君たちの力が必要なんだ」

「ええっと……とりあえず母に相談するであります」

「え? 母?」

「あれ、ご存じない? 私たち翼人族は……」


 翼人族は女性優位の社会を形成する部族。


 部族同士で争いがおこると代表を決めて決闘する。この時、代表に選ばれるのは例外なく女。男は戦いに参加しない。


 それどころか、負けた方の部族は代償として男を献上することになっている。男は戦力としてではなく、財産として扱われるのだ。

 族長を務めるのはもちろん女。部族の取り決めも女性が主体的に決めている。


 ……らしい。


「つまり君のお母さんは族長なんだね?

 一度会わせてもらってもいいかな?」

「構いませんけど……あの、どちら様でありますか?」


 そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺は自分の名前を伝えた後で彼女の名前を聞く。


「私はトゥエ。族長トゥナの娘であります」

「よろしく、トゥエ。

 移住の件だけど……前向きに考えると伝えてくれ」

「はい! 直ぐに報告しに行くであります!」


 トゥエはニッコリとほほ笑むと窓からジャンプ。俺が窓へ駆け寄って外を眺めると、彼女はすでに遠くの方まで飛んでいた。飛行できる種族だけあって身軽だな。

 割と好感触だったので、案外すんなり協力してくれるかもしれない。


 この国には空を飛べる獣人がいない。哺乳類や爬虫類の獣人はよく見かけるのだが、鳥類の獣人っていないんだよな。

 どこかに存在しているらしいが、少なくともこの国で目にしたことはない。

 なんでも……随分と昔に先代だか先々代だかの魔王と仲たがいして、鳥類系の獣人たちはみんなで出て行ったらしい。今は遠く離れた国でひっそりと暮らしているそうだ。

 なので、基本的に我が国の航空戦力は飛竜部隊に限られている。


 飛竜はべらぼうに飯を食う。おまけに管理、維持にも手がかかり、気難しい動物なので乗り手の確保も困難。正直言ってコスパはあまり良くない。


 飛竜にかかる維持管理費をどうやって削減するか、長い間、悩みのタネだったが……翼人族が協力してくれるのなら一発で解決。

 偵察もできるし、予備戦力としても有用。飯だってそんなに食わんだろうし、戦費を大幅に節約できると思う。


 悩み事が一つ解決しそうなので気分よく買い物ができそうだ。






 俺は市場へ向かう。ベッドを作る材料を集めるためだ。


 自作するとなると難易度が高い。作り方を誰かに教わるか悩んだが……やはりきちんとした技術者にお願いする。中途半端な出来ではミィが眠れないだろうし。


 スケルトンの俺が寝床を用意するとなると、不自然に思われるので一般人に頼むのはよそう。信頼できる仲間に頼むとするか。


 釘や“かすがい”などの金具を買ったら城へ戻って廃材を集める。設計図も書いた。後は優秀な大工さんだな。

 ヌルに頼んでも良いが……あの人、仕事が忙しいからな。頼むとしたらノインかな?


 中庭に材料を並べあれこれ悩んでいると……。


「おっ、なにしてんのー?」


 魔王が現れた!


「あっ、いえ……ちょっと日曜大工を」

「休暇を取って大工仕事?

 お前も意外と物好きだなぁ。

 どれ、貸してみろ」


 そう言って俺からのこぎりを奪い取る魔王。もしかして……手伝ってくれるのか?


「どれを切れば良いんだ?」

「では、ここを……こんな風に」

「任せろ」


 ウキウキ気分の魔王。オフだからか妙になれなれしい。


「そーれ!」




 ブイイイイイイイン!




 目にも止まらぬ速さで鋸をひく魔王。おがくずが勢いよく飛んでいく。


「切れたぞ」


 切断した木材を片手にドヤ顔。


 彼の操るのこぎりはチェーンソーのよう。あまりの仕事の速さに目がくらむ。俺が面白半分に木材を渡すと、魔王はその全てを指示通りに一瞬で切断。


 すごい!


「素晴らしい……流石です、閣下!」

「どんどん持って来い! どんどんだ!」

「閣下、次はくぎ打ちを……」

「任せろ! そう言うのも得意だ!」


 魔王は金づちを手に取り、釘の束を口にくわえる。


 そして……。




 トントントントントン!




 目にも止まらぬ速さで釘を打つ魔王。まるで釘打ち機のようだ。


「すごいですね。どこでこんな技を?」

「ふっ、何もすることが無いのでな。

 暇つぶしに色々といじっている内に、

 こんなことが出来るようになったのだ」


 とんでもなく暇なんだな、この人。


 魔王って普段はなにしてるんだろう。俺が書類を持って行かなかったら、ただ玉座に座っているだけ。

 暇つぶしにするとしたら……あやとりとか詰め将棋かな? あと、天井のシミの数とか数えてそう。


 魔王って本当に暇な職業だよな。過労死する心配はなさそうだけど、それはそれで嫌な気もする。


 ベッドはあっという間に完成した。


 その仕上がりは完璧。文句のつけようがない。


「ありがとうございました」

「ふっ、俺からすれば朝飯前だ。

 しかし……お前が運ぶのは骨が折れるだろう。

 どれ、俺が運んでやろうか」


 比喩とかではなく、本当に折れるわ。運んでくれるのならありがたい。


「お願いします!」

「うむ」


 これで楽ができると思った俺なのだが……。

 この選択のせいでひどい目にあうのだった。

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