第13話 頼もしい部下たち
今日は休暇を取ったので一日休み。しかしやることは沢山ある。
先ずは便所だ。この部屋の隣に作る。
つっても一日やそこらで作れるものじゃないし、俺一人じゃとても無理なのでオークたちに頼む。オークは大工仕事が得意な奴が多い。城のメンテナンスなんかも彼らに任せている。便所くらい簡単に作ってくれるはずだ。
ということで早速依頼しに行く。
「ええ? なんで便所をあんな場所に?」
不審そうに大工のオークが言う。
ノインと同じくたくましい体格の持ち主だが、彼とは違い牙が一本しか生えていない。以前に事故で欠損してしまったらしい。残された牙もボロボロ。ところどころひび割れ、黒ずんでいる。
あまり熱心に手入れしていないようだ。
彼の名前はヌル。
魔王城の設備の保守点検を担当。手先が器用でリーダーシップがあったので俺が任命した。
「見回りの兵士の為に必要なのだ」
「あそこを通る人なんてほとんどいないでしょう?
別にわざわざ作る必要もないでしょうに」
「そう言う油断がいかんのだ。
見回りの途中で万が一糞を漏らし、
その瞬間に勇者が襲ってきたらどうする?」
「そんなこと起こり得ますかね?」
「もちろん」
俺は胸を張って堂々と言い切る。
「はぁ……分かりました。
若いのを何人か手配します」
「工期はどれくらいになる?」
「水を引っ張る必要がありますから、
結構かかりますよ」
「二週間でできないか?」
「にっ! 二週間で⁉」
流石に無理かぁ。
「どう考えてもひと月はかかりますが」
「無理は承知なのだが、もう少し短くならんか」
「無理ですねぇ」
「そこをなんとか」
俺は何度も頭を下げる。そうしている内にヌルの方が折れた。
「分かりました。出来るだけ手短に済ませましょう」
「恩に着る!」
これでしばらく騒がしくはなるが、便所が完成すればそっちの問題は解決する。あともう少しの辛抱だぞ、ミィ。
それじゃぁ次。
「ええ? 実験器具ですかぁ?」
怪訝そうな顔になるツインテールの少女。名前をサナトと言う。
髪の色はショッキングピンク。服装はホットパンツにキャミソール。そして赤と白の縞模様のニーソックス。つばの広いとんがり帽子をかぶり、深紅のマントをはおっている。
見た目はコスプレをしたかわいらしい女の子だが、実年齢は300を超える老齢の女性。
彼女は魔族が信仰する邪神と婚姻関係を結んで、永遠の若さと特別な力を手に入れた。一般的に魔女と呼ばれる種族である。
異教徒となった魔女たちは、必然的に魔族の領域で生活することになる。処女以外は邪神と契約できないので、魔女は全員が例外なく処女。
……ということになるらしい。
「ああ、とにかく実験道具を揃えたい。
火が付く道具が欲しいんだ。
熱が出るような物はないのか?」
「熱……ですかぁ。
ちょっと思いつかないですね。
合成して作った方がいいじゃないですか?」
「え? 作れるの?」
「ええ、例えば発熱する石と……」
死霊術以外は専門外なので、魔法のことを解説されてもよく分からん。
面倒なので、いい感じの道具を作ってもらい、後で受け取ることにした。これで調理器具は確保できる。
サナトは個人で商店を営む一般人だったが、俺がスカウトして連れてきた。
こう見えて、彼女は非常に優秀。俺が警備システムの強化を依頼するやいなや、魔法で強固な防衛システムを構築。以来、城内での幹部死亡件数はゼロ。
魔法の力ってスゲー。
見回りオークのシフトも彼女が組んでおり、魔法を使わない専門外の分野でも活躍。本業だった魔道具の管理や製造も行っているので、この手のお願いも快く引き受けてくれる。
頼りになる仲間だ。
「でも、なんで急に熱を出す道具なんか?」
「それは……色々あるのだ」
「はぁ、色々ですか。
詳しくは聞かないでおきますね」
そう言ってニッコリと笑うサナト。
かわいい。
「それにしてもユージさま。
最近、働きすぎじゃないですか?」
「別に今までと変わらんが」
「そうですかねぇ。
明らかに仕事が増えたように見えますが」
確かに忙しいが……アンデッドなので疲れない。過労死することもないし、身体が壊れたら新しいのを見つければいいだけ。
特に困ったことはないのだが……。
「あまり無理をなさらないでくださいね。
ユージさまがいなくなったらゼノは終わりです。
まともに仕事をしている幹部は、
あなた一人だけですから」
「評価してくれるのは嬉しいが、
過大に持ち上げすぎられても困るぞ」
俺がそう言うとサナトはため息をつく。
「過大でもなんでもありません。
なんなら魔王に、なんて声まであります」
「流石に有り得ない……そんな器じゃないぞ。
それに見てみろ、この身体を。
俺はただのスケルトンだ」
「それでも今の魔王様よりはずっとましかと」
彼女がそんなことを言うもんだから、辺りを見渡して誰か聞いてないか確かめてしまった。
「そんなことを不用意に言ってはならん」
「聞かれても構いませんよ、別に」
そう言って口をとがらせるサナト。
「頼むから言動には気を付けてくれよぉ。
サナトがいなくなったら、困るのは俺だぞ」
俺は小声で彼女に言う。
この子がいなくなったら、魔王城の警備はスカスカ。獣人もオークも魔法が苦手なので、姿を消した敵を察知できなくなってしまう。
「わかりました、気を付けますね。
でも、ユージ様……無理は禁物ですよ。
あなたはこの国になくてはならない存在です」
「ああ、ありがとう」
こうして理解してくれる人がいるだけで、心の持ちようが全然違う。
ありがたいことだ。
調理器具はこれで確保できる。次の用事もパパっと済ませないとな。ミィが寝るためのベッドが必要だ。
市場に買いに行くか。それとも職人に来てもらって……。
ドンっ!
考え事をしていたら誰かにぶつかって、骨が何本か落ちてしまう。
「ああっ、すみませんっ!
無事でありますかっ⁉」
「大丈夫だ、骨だから……うん?」
ぶつかったのは人間の少女……ではない。背中に羽が生えている。それと、足が鳥のような形。あまり見かけん種族だな。
「一緒に拾うであります」
そう言って少女は骨を集め始める。
どこの誰だか分らんが、魔王城で何をしてるんだろうか? 他の魔族の国から派遣された外交官とか? それにしても……きれいな羽だな。
背中に生えた羽をぼんやりと眺めていると、あるアイディアを思いつく。
これは……使えるかもしれん。
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