第11話 前世
ミィが転生したのはわずか11歳のころ。
信号無視をした車に轢かれて死んだそうな。ありがちな死因ではあるが、実際に聞くと胸が苦しくなる。
短い生涯を終えた彼女は正体不明の声によって転生を促され、新たな人生を歩むこととなった。
ミィが転生したのは15歳の少女の肉体。それ以前の記憶は一切なく、こちらの世界で目覚めた時にはもう、成長した身体になっていた。
身体の元々の持ち主については何も知らない。周りにいた人間は何も教えてくれず、気になったので尋ねてみたが、答えてくれなったと言う。
なにがなんだか分からないまま勇者の称号を背負わされた彼女は、強制的に魔王討伐の旅へと送り出される。そんな彼女に最初の難関が立ちはだかった。
知らないオジサンたちとパーティーを組んで、24時間一緒に過ごさなければならないと言うのだ。精神年齢が11歳の彼女にとっては不安しかない。
オジサンたちは彼女を品定めするかのように、じろじろといやらしい視線を送る。嫌だと言っても聞く耳を持たない。若いから馬鹿にされたのだろう。
ついには入浴しているところを覗かれそうになり、我慢の限界に達したミィは全員を追放処分に。
一人になった彼女は女の子とパーティーを組むことにした。同性ならセクハラされる心配もない。そう思って安心した矢先に今度は別の問題が発生。
最初は少し違和感を覚えるだけだった。
お喋りに混ざろうとすると急に会話が止まる。ミィから話を振ると生返事なのに、他の子が話し出すと皆がその話題にのる。ミィを置いて皆でどこかへ行く。戻って来ても何も言わない。
明らかに仲間外れにされている状況で、なんとか関係を修復しようと試みる。自分に悪い所があれば治すつもりだったし、何度でも頭を下げるつもりだった。
しかし……結果はなしのつぶて。
彼女たちは何も答えないまま、和解の申し出を拒絶して去っていく。一人残されたミィは単独で魔王に戦うことにした。
そして……。
「俺の部屋の前に……」
「うん、どうしか分からないけど、
気づいたらここにいたんだ」
彼女の潤んだ瞳は月明かりを受けて輝いている。
「辛かったんだね」
「うん……本当に苦しかった。
私を助けてくれたのはユージが初めてだよ」
そう言う彼女の表情はどこか荒んで見えた。精神年齢11歳の子がするような顔じゃないな。
「まぁ……助けたのは成り行きだけどなぁ」
「でも、私にとって初めてできた味方。
今までの仲間ってどこか遠くて、
本当の意味で受け入れてくれなかった。
でもユージは……何から何までしてくれて、
私にとってお母さんみたいな存在だよ」
お母さんみたいって……おっさんに向かって言うセリフじゃねぇよ。
「そう思ってくれて、なによりだ」
「それに骨だから変なこと考え無さそう」
「うーん、それはどうだろうかね」
「え? 私の身体に触りたいとか思うの?」
そりゃ思うよ。実行に移すかどうかは別にして。
「さぁね、骨だからよく分からないよ」
「よかったぁ」
心底ほっとしたように微笑むミィ。
よほど嫌なことをされたんだな。
「ねぇ、今度はユージの話が聞きたい」
「え? 俺の話?」
「うん! お願い、聞かせて」
黙っている訳にもいかない。きちんと正直に話そう。
先ずは前世について。
ブラック企業に就職した俺は過酷な日々を送っていた。休む間もなく働き続けた結果、心を病んでしまう。
それでも頑張り続けた。やめたらそこで終わりだ。いつか必ず報われる時が来る。
そう思って頑張り続けたのだが……身体がもたなかった。
「大変だったんだねぇ……」
俺の話を聞いてドン引きするミィ。
「次はこっちに来てからの話だな」
「そっちも辛いの?」
「ぶっちゃけ三割増しくらいで辛かった。
それでも聞く?」
「ううん……聞いとく」
俺はこちらの世界で歩んだ軌跡について話す。
先ずは幼少期。
俺はネクロマンサーの家系に生まれた。物心がついた時から死霊術の訓練を受け、一人前の術者になるようしつけられる。
家にはいつも新鮮な死体が置いてあり、それを使って死体を操る練習をしていたのだが、あまりにグロくて何度も吐いた。
死体同士を戦わせる実技試験では原型が無くなるまで戦わせる。四肢や頭部を欠損しても動き回る死体。それを動かしていると思うと背筋が凍った。
俺は死霊術の練習が嫌でたまらず師匠的な人に相談して辞めたいとお願いしたが、その願いが聞き入れられることはなかった。
俺には幼い妹がいたのだが病気のために死んでしまった。あろうことか、父親はその妹の死体を使って死霊術の実験を始める。
家族の身体すら道具として扱う父親に俺は心底嫌気がさして逃亡を決意。14歳になったら逃げるように家を飛び出して、普通の男の子として生きる道を選ぶ。
単純な思考回路をしていた俺は街に着いたらすぐに冒険者になった。これが一番早く稼げると思ったし、なによりも面白そうだったから。
だが直ぐに現実を見せられ絶望する。
冒険者は死ぬ。とにかく死ぬ。死ぬのも仕事のうちに入っている。
魔物を狩に行っては仲間が死に、ダンジョンに潜っては誰かがいなくなり、野盗の討伐に向かっては返り討ちにあう。
身体が欠損したり、大けがをしたりして、二度と依頼を受けられなくなる奴もいる。そうなったら最後、見捨てられて朽ち果てるしかない。住まいが借家なら問答無用で追い出され路上生活を送る羽目になる。
野良になったら誰も助けてくれない。不自由な身体では仕事もできず、飢えて死ぬのを待つばかり。なんとかゴミを漁って生き残る奴もいるが、不衛生な環境に身体を蝕まれ、病気になって死んでいった。
不思議なことに冒険者と言う奴は、死んでも、死んでも代わりが見つかる。
どんな時でもギルドは大にぎわい。一年を通してひと気がなくならない。
なんとか無事に依頼をこなしていた俺だが、40代以上の冒険者が一人もいないことに気づき、先が長くないことを悟ってやめた。
別の道を進もうと、あれこれと思案して、地道に農夫として生きることにする。
その選択も決してよいものではなかった。
進む道が変わっただけで、結末は同じ。
地獄が待っていたのだ。
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