第3話 出世

 俺は色んな雑用を任されるようになった。


 仕事が増えれば増えるほど、関わる人の数は増えていく。その過程で俺は多くの仕事を人任せにするようになり、バイトリーダー的な存在へと成り上がった。


 そして気づいた。ここには馬鹿しかいないと。


 問題が発生すると誰が悪いかで揉め、責任の押し付け合い、罵倒合戦が始まる。時には殴り合いの流血騒ぎにも発展し、一向に何も解決しない。


 ある時、橋を建設することになったのだが、何か月たっても完成せず、予算も底をつきかけていた。この問題で割と話の分かる幹部が頭を抱えていので、不憫に思った俺は協力することにした。


 現場を見に行くと問題が判明。橋の装飾を豪華にし過ぎたせいで、工期と予算を圧迫していたのだ。


 俺は直ぐに計画を変更。残りの半分を普通の橋として建設するように提言。すると2か月で橋は完成。予算も十分に足りた。


 この一件でその幹部から一定の評価を受けた俺は、色んな仕事を任されるようになる。

 つっても、さして難しい仕事はふられていない。施設の保守点検とか、人員の配置とか、物品の管理とか。


 こういう仕事は得意だった。俺が自分で仕事をするんじゃなくて、命令して他の奴を動かせばいいだけだからな。


 サクサクと仕事をこなして、サクサクと出世。

 気づいたら幹部になっていた。


「いやぁ、俺は最初からお前の才能を見抜いていたぞ」


 まともな幹部から褒められたのを覚えている。


 その人はトカゲの容姿をした種族で、しゃべるたびに目がギロギロして怖かった。そんな彼も潜伏していた勇者一行に暗殺され、帰らぬ人となった。


 幹部連中に馬鹿が多い原因の一つとして、勇者の存在が挙げられる。


 彼らは複数のパーティーに分かれ、魔族の領内に潜伏。名だたる幹部を次々に闇討ちして、魔族勢力の弱体化を図っていた。

 かくいう俺も何度か襲われた。その度に復活するので問題はなかったが、他の連中はそうもいかない。


 俺が勤めているのは7大魔王が統治する領地の中で、人間の領域に最も近い位置にある国。なので、幹部が殺される率が他よりも高い。

 直ぐにでも対応が必要なのに、アホの魔王は全く対策を練らない。


 仕方ないので、俺がなんとかすることにした。失われた人材を穴埋めすべく士官学校を設立。生き残った幹部たちは城に入れ、死亡率の軽減を図る。


 魔王軍の立て直しに心血を注いだ俺だったが、働き過ぎが原因でノイローゼに。精神を安定させようと、あることを思いついく。


 自作の小説を書いて不平不満をぶつけるのだ。


 紙は領内でも生産されているので、粗末なものではあるが比較的容易に手に入った。最初は日記をつけるだけのつもりだったが、途中から小説へ路線変更。

 仕事で面倒を起こす馬鹿どもを、物語のなかで可憐な女勇者に虐殺させる。われながら実にくだらない内容だと思うが、たまりにたまった鬱憤が面白いくらいに晴れていった。


 気づけば数十冊に及ぶ大作が完成。

 山積みになった自作の小説を前に、俺は何をやっているんだと頭を抱える。

 もしこれが見つかれば処刑不可避。たとえ死なないアンデッドだったとしても、土に埋められてたらどうしようもない。


 万が一のことを考え、自分の部屋を人気のない場所へ移動。

 兵士たちには部屋に入るなと伝えてある。警備のオークはみんな素直な奴ばかりなので、こう言っておけば多分大丈夫だ。


 不満のはけ口を手に入れた俺はなんとか持ち直し、日々の業務をこなすことができた。


 魔王軍での仕事も順調に進み、育てた幹部候補たちはせっせと仕事に励んでいる。食糧や経済など、諸所の政策も順調。


 あとは魔王がもう少しお利口になれば言うことはない。それはまぁ、無理だろう。


 俺が仕えている魔王は、7大魔王の中でも屈指の無能と揶揄やゆされている。単純な計算でさえ無駄に時間がかかり、おまけに間違いだらけ。マトモに計画なんて立てられない。

 そのため内政の業務はほとんど俺と部下で回している。魔王は書類に目を通してハンコだけ押してくれれば良い。


 そんな馬鹿魔王だが、最近になってまた困ったことを言い出した。

 人間の領域に侵攻して領地を増やすと言うのだ。


 戦争には金と時間がかかる。当然、損失もともなう。コストに見合うリターンがあるかと言うと……ハッキリ言って微妙なところだ。


 俺が忠告したところで、魔王が耳を貸すはずもない。自分の名誉を取り戻すために、実績を残したいと考えているからだ。

 彼は他の魔王からアホだとののしられており、それを知って深く傷ついているらしい。


 そんな彼をいさめるのは相当に難しい。戦争回避は無理だと諦めた俺は、早期に終結させる方向に考え方をシフト。積極的に侵攻計画に加わり、ローコストかつコンパクトな事業になるように努めた。


 ある程度、見通しがついたところで、新たに問題が持ち上がる。


 俺は彼女に出会ってしまったのだ。

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