中学三年生の夏休み 4

レディと一緒に電車に揺られたどり着いたのは海岸近くの海。

日本でも珍しいらしい東幡豆のトンボロ干潟に二人だけでいる。

吹き抜ける海風は微かな話し声ならかき消していく。

干潟の両側から迫る波が白い泡を打ち上げては引いていく。

「実はさレディ、聞きたいことがあるの」

海風に負けまいと声量を出した。

「なんや?」

どこか抜け殻のようなレディが気怠げに。

「レディとミレイさんてどんな関係なの?」

とぼけているのか?は?という顔をしてる。

「ミレイて誰や?」

顔は虚空を眺めている。

「黒牟田さんだよ!私、レディが並んで歩いている所を見ちゃったの!」

「なんや、そんな事を聞くために呼び出したんか?」

空を仰いだまま。

「そんな事って!私はずっと憂鬱な気分だったのに!」

レディの額の血管が一瞬浮き上がったのを見て躊躇ちゅうちょしたけど、怖いけど知りたいの思いが止められない!

「憂鬱な気持ちやて?なにを言ってるんや京香」

目だけをこっちに向ける。

正直、ここまでレディを怖いと思ったのが初めてで、耳たぶを擦る。

「そうやって緊張が高ぶると耳たぶ触るのを見るとやっぱり京香なんやなって安心したわ」

やっぱり?

「小学生の時、学芸会の舞台の袖で出番が近づいている時もずっと触ってたもんな」

やっぱりって?

「中学の卒業式もそうやったな。卒業証書授与の名前を呼ばれるのが近づくとずっと触ってたなぁ。懐かしいなぁ」

ねえ、レディ。なにを言ってるの?

「久しぶりに会えたと思ったらどこか他人行儀だったのは寂しかったでほんまにな」

どうして泣いているの?

「なあ京香、お前さん、途轍もなく大切な事を忘れている事にまだ気付かれへんのか?」

大切な事?私は何かを忘れているの? 

「そこまでよレディ」

間に入ってきたのはヒノコムの双子。

「残念だけど約束を破ったからにはここまで」

レディと双子の姿が風に乗って掻き消えて、足元まで迫る波に流されていく。

「教えてよレディ!私はなにを忘れているの!?」

こうしてまた私は世界で独りぼっちになってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る