ヒノコムの世界 5

「今晩は京香。最近は暑くて嫌になるわね」

少女の頭の中は疑問で一杯になった。

双子のレンがいない。ムノが明らかに歳を重ねて母性すら滲み出ているのは何故?

「レン?いけない事をしたらお仕置きとして押し入れに閉じ込めるものでしょ?」 

レンがなにをしたというのか?

また新しい疑問を挿し込まれて少女は余計に混乱する。

「京香、今回は特別に神様に会わせてあげる」

神様という言葉を足掛かりに記憶の底から神谷さやとのやり取りが浮上する。

「もうすぐあなたは神様と出会う」

神様とは?

 神様という言葉をヒノコムで発したのは神谷さやとムノだけだ。

同級生達ともここで何度も会話した。

それでもありきたりな「神様」という普段使いの言葉は一度たりとも出てこなかった。

 少女の中でなにかが繋がろうとしている。

神様と口にした神谷さやとムノには自分が知らない関係性がある。

それはなんだろうと考えている内に、世界が変わっていく。

目の前のムノの姿が掻き消えていく。

赤い絨毯が。黒い壁が。巨大な円柱が。

 大きな窓から白い日が射し込む。

目を開けていられないはずの明るさにあっても、少女には窓辺で気怠げに腰掛ける人物がよく見える。

 白いニット帽を被っている。

青の半袖シャツ。黒いズボン。

少女より少し年上に見える彼女は語りだす。

「ようこそ私の世界へ。私はずっとここにいるの」



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