中学三年生の夏休み 3
レディが住む団地に来るのは1週間ぶり産まれてから通算で数えきれない。
目を瞑ってでも半分寝ぼけてもたどり着ける場所。私は何度も通り過ぎて引き返した。
肌を焼く炎天下でなにをやっているんだか。
コンクリートで固められた排水路に木陰は望めない。
せめて団地の影に入ればいいものの。
しかし、それはアスファルトから生えてきたように建つ灰色の団地に近づくと同義で。
でも、ずっとうろうろしているのもどうかと。
だって、それって、朋ちゃんの家の前でうろうろしていたミレイさんと一緒。
「あっ…」
団地の近くを彷徨いて、戻ってきて、私が意識して意識しないように努めていた事実が綺麗に弧を描いて戻ってきた。
私は見た。見てしまったんだ。
登校日に学校を休んだレディにプリントを届けに来たとき。
ミレイさんがいた。
レディと一緒に部屋の前の廊下を歩いていたんだ。
決して、仲良しという風ではないけど。
二人とも思い詰めた顔をしていたから、咄嗟に身を隠して覗いたけど。
終始無言だったけど。
なにかおかしいけど?
なにかが…。なんだろう…。二人が一緒に以上にもっとおかしな所が。
幼児向けの間違い探しのように真っ先に見つけられる大き過ぎる違い。
「なにしとるんや京香?」
白黒に若干の砂嵐が混ざった記憶の再生中に声を掛けられたからそれはもう飛び上がる勢いで。
目の前に現れたレディの容姿が正常に戻るのに僅かな間が起きた。
「なんだ。レディかぁ…」
「なんだってなんや。うち以外にだれがおるんや」
はははって白い歯で笑うレディ。
うーん。流石はモデルをやっているだけはある。
雑誌に載ってる笑顔だ。
お姉ちゃん達が買う気も無い雑貨にとりあえず「可愛い」って言うときと同じような。
「まっ。とりあえず部屋いこうや」
レディが前を歩く。
コンクリートの組み込まれた形状が真夏の陽を遮ってくれる。
影が濃い所はひんやり冷たい。光が届かない所はきっともっと冷たいんだ。
「あ?なんでや?」
レディが鉄扉を開けるのに悪戦苦闘。
「いやいやレディさ。いつも建付け悪いからって少し持ち上上げてるじゃん」
「せやせや。ちいとボケてたわ」
見慣れた部屋。
レディのお家。
「三人で暮らしてるようなもんなのにな」
散らかるゴミを見て、はははってまた笑った。
自嘲を含んだ本当の心からの表情。
「うちも一緒だよ。春香お姉ちゃんの部屋なんてもっとだよ」
本人がいる前では言えないけど。
怠惰にえも言われぬ圧を混ぜて見てくるのが想像に難くなく、竦み上がる。
どうやってミレイさんの事を切り出そうか。
私はなにも言えず。
レディと雑談を続けた。
どこか子供の頃が懐かしいと不思議なままに。
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