中学三年生の夏休み

やっぱり私は「だるい…」と呟いて廊下に出た。

学習机の上に散乱した宿題から目を逸らしながら。

「おー。よしよし花子。よーしよし」

クーラーが効いた部屋で横たわる花子。

最近は尻尾も振らない。

「おー。よしよし」

私は花子を撫でる手を止めない。止められない。

「よーしよし」

花子を撫でている間だけは後回しにしているする現実を忘れられる。

溜め込んでいる宿題の事とか、休み明けのテストとか、あとは…レディの事とか。

「あーあ…。久しぶりの登校日かぁ…。だるいなぁ」

自分で一日一回までと決めていた「だるい」という言葉をまた吐いてる自分が嫌になる。

 あぁ、教室の話題は夏休みの宿題の進捗が占めている。

高校は進学校を目指している子は八月が始まる前に終わらせているし、そんな子の写しを要求する子。

宿題なんてボイコットすると宣言する子まで。

「京香ちゃん…」

「わっ!大丈夫、朋ちゃん!?顔色悪いよ!保健室いく!?」

背後からすっと現れたから驚いた。

それ以上に顔面蒼白で、それでいて目が腫れぼったいのが心配で仕方ない。

「私なら大丈だから…」

「大丈夫じゃないよ!ほら、行くよ!」

朋ちゃんは腕を掴む私の手を振り解こうとしたけど、あまりにも非力でやっぱり連れて行かなくては。

「本当にごめんね…」

「なに言ってるの朋ちゃん!私達、友達じゃん!」

廊下には私達二人だけ。

泣きじゃくる朋ちゃんの声がよく響いていた。

窓からは夜空に二つ浮かぶ月の明かりが差し込んでいる。

朋ちゃんが元気になりますように。

私は流れ星を探す。

遠くから波の音がする。



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